「世界のことをそれなりに知っていて、だけど何でもを知っているわけではなくて、できることがそれなりにあって、だけど何でもできるわけではなくて、そういうのが一番この世界ではもどかしく辛いことかもしれないね」 「何だい、それは」 「あなたを見ているとそう思わずにはいられない、と言えば怒るでしょう?」 「もう言っているようなものじゃないか」 呆れて何も言えない、と表情を浮かべて頬杖をつく梵天は長くい髪を弄りながら、何てことはない空をただ眺めていた。 私には、青くて綺麗な空。 だけど梵天には、全く違った色と形で見えているのだろう。 同じものを見ているのに、同じようには見えない。 それは私が人間である限り、いや、梵天と同じ存在ではない以上永遠に交わることのない世界の在り方なのだ。 同じものを見て、同じことを話していても、それは決して『同じ』ではない。 「梵天、私はあなたの力にはなれないけれど、こうして同じお茶を啜ってくだらない話をする程度には役に立てているのかしら」 「それは役に立つと言えるのかい?」 「あら、1人だとここにはお茶もなければくだらない話もできないのに」 「役に立つ、立たないで、君とこうしていることを考えたことはないよ」 「そう」 「けれど、そうだね。まぁ、ここにも馬鹿げた人間がいると思うのは、存外悪くはないと思ってはいるよ」 ささやかに微笑む目元は優しくも見え、寂しくも見え、そして空を見上げるその瞳の色は淡い蒼のようで、深い緑のようで、美しく輝いて見えるそれさえも彼にとっては、きっと。 (130814) |