時をかけた少女 | ナノ



05

声を殺すように泣いている姿を見て、俺は何も言えなかった。
大丈夫だ、なんて言葉は口が裂けても言えないし、頑張ろう、なんて言葉も場違い甚だしい。
何か言ってやりたい気持ちはもちろんあったけれど、結局俺は何も言うことができなかったのだ。
せめてできることと言えば、すっきりできるように風呂を沸かしてふかふかの布団を用意してやることくらいだった。

「のび太かよ…」

すでに眠ってしまっている当の本人は、安心しきった表情で寝返りを打つ。
危機感とかそういうのは全くないのか、と言ってやりたいほどのそれは男として少しやるせない何かがあることは確かだったが、それと同時に少しの優越感も否めない。
今この安心を与えてるのは俺なんだと、どこかで思っている。
今年21になる男が、16の女に振り回されて何やってんだと思いつつ明日しなければならないことを色々と検討していた。
とにかくいつ戻れるのかも分からない状況だとなれば、用意しなければならないことは山のようにある。
家にいる分には服は今貸しているように俺のものでことは足りても、下着は話が別だ。
俺のを貸してやることもできなければ、今使用しているものを使い続けろなんて鬼のようなことは流石にできない。
それに女には月に1回のアレもある。
その辺りのことは明日に考えるにしても、やはり男と女が1つ屋根の下で暮らすっていうのはそれなりの障害があるものだろう。
人生初のある意味同棲生活の始まりは、あまりにもドタバタしたものだった。
まったく、厄介なもんを拾っちまったよな。
確かにそう思うのに、それでもこの安心しきった寝顔を見るとまぁいいかと思ってしまう俺はやっぱり甘いと思う。
どうしようもない形で終わりを告げられた初恋が、まさか5年後に舞い戻ってくることになるなど思いもよらなかった。
あの日は朝練もなく、ぼんやりとしながら自転車を走らせていたあの雨の朝。
いつものくせで早く起きてしまったせいで重たい瞼を必死に開けて見た光景が、いつか気持ちを伝えたいと思っていた女の子が吹き飛んでいる光景なんて、笑えやしない。
伝えられなかった未消化な気持ちをぶら提げたまま、今日まで生きてきた俺に多大なトラウマを残していったその子が、ケロっと現れるなんて誰が想像できただろうか。
本当に堪らない。
こうして触れられるほど近くにいるっていうのに、まだこいつは遠くにいるような気がする。
触れた途端ふわりとどこかへ消えてしまいそうなほど儚いその存在に、やはり俺は振り回される運命らしい。


時をかけた少女
(また今日も1つ星が落ちる)


お前の言う通りこれが神様の与えた最後のチャンスだと言うのなら、彼女は何に後悔しないために俺のところへ来たのだろうか。
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