03 「ねぇ、ホントのホントに阿部隆也なの?ドッキリとかじゃないよね?」 「それはこっちのセリフだっての」 鬱陶しい雨が続いていた。 ただ億劫だったはずの午後に、俺は思わぬものを拾ってのだ。。 「お前さ、少しはどうやったら戻れるかとか考えろよ」 「どうやってここに来たのかだって分からないのに?考えて分かるの?」 「分かろうとする努力をしろ」 「だって色々ありすぎて混乱してるし…それより部屋すごい片付いてるね!流石阿部って感じ」 今、何より先決しなければならないはずのこの状況をどうするのかを考えるより、部屋の中に興味を示す神経の図太さには恐れ入った。 こんなやつだったか?と記憶に問いかけてみるものの、はっきりとした答えを導き出せないのはいやに切ない。 それだけ、関わりが少なかったのだと目の当りにさせられるからだ。 ベッドに腰を下ろしてキョロキョロと物珍しげにしているこの女は、そんな俺の心情を知りもしないで暢気な様子を見せている。 一番慌てなければならないやつが悠長に構え、巻き込まれた俺がどうしてこんなに焦らなければならない。 普通に考えれば、いや、考えなくてもおかしいだろう。 至ってマイペースを崩さないその様子を横目に溜め息をつき、自分が保護した彼女をもう一度良く見てみる。 やっぱり、あいつだ。 目の前にいるのは間違いなく過去からやってきたクラスメートで、どれだけそれを否定しても今、現実に起きていることが更にそれを否定する。 俺自身、まだあまりにも現実離れな出来事についてなんていけていない。 それでも過去から来たということを証明しているのはこの頭に詰まっている記憶なのだから、信じる信じない以前の問題だった。 ぶっ飛んだことを言ってるのは分かっている。 自分が第三者の立場なら絶対に信じないだろう。 どれだけ親しい人間だったとしても、こんなにもファンタジーなことを言い出せば間違いなく怪しいものを見る目で見てしまうに違いない。 つまり俺が助けを求められる人間は、どこにもいないということだ。 「ごめんね」 「…来たくて来たわけじゃねぇんだろ」 「でも、すごく迷惑かけてるから」 「まぁ驚いたけど、迷惑なんて思ってねぇよ」 「だっていつ戻れるかも分かんないし」 「頼れるのは俺しかいないしって?」 遠慮がちにコクリと細い首を縦に振り、さっきまでの態度が嘘のように小さく縮こまってしまった姿が痛々しい。 不安じゃないわけがないのだ。 頼れるのはただのクラスメートだった俺しかいないとなれば、それも余計だろう。 とにかく今はっきりしていることは20歳になった俺と16歳のままの彼女が、こうして向かい合って座っているということだけで十分だと、何故か楽観的にそう思えた。 「飯にすっか」 「え、でも、」 「腹減ったまんまじゃ、良い考えなんて思いつかねぇだろ」 時をかけた少女 (雨染みず降る花待ちに) 一定のリズムで降りつ続ける雨。 実らなかった初恋の相手が、時を越えてやって来た。 それは奇跡が始まった日だった。 |