30 気付けば俺は20歳になって、誕生日が早いあいつは21歳になっていた。 それでも付き合って5年。 どちらも東京の大学に進学したことから下宿中で、お互いの家を行ったり来たりするのももう3年近くなるのかと思うと、積み重ねてきた時間の長さを実感する。 平凡な幸せというものが、今ここに当たり前にあることを何故かとてもありがたく思う時があった。 理由なんて、もちろん分からない。 だけど心当たりがあるにはあった。 ただ、同じベッドで眠る華奢な体が時々消えてしまわないかとひどく恐いのだ。 そんな時は決まってその体を抱き締めると、あいつは懐かしそうな表情で笑う。 いつだったか、その表情の意味を聞いたことがあったけれど、「また今度ね」とはぐらかされてしまったっけ。 幸せそうに寝息をたてる細い肩越しにカーテンの隙間から見える窓には、さっきまで降っていた土砂降りが嘘のように雲が切れ青空が覗いていた。 「ん…」 「起こしたか?」 「ううん。おはよ、隆也」 「ん、はよ」 んー…と一度だけ背伸びをして、猫のように俺の近くへと擦り寄る体を引き寄せる。 「ね、雨もやんだみたいだしドライブ行かない?」 「いいけど、行きたいとこあんの?」 「うん!あるの!」 モソモソと起き上がっておもむろに準備をし始める姿をぼんやりと眺めていると、「車の確保!」と携帯が投げられる。 「お前…!換えたとこだぞ!?」 「名キャッチャーは落とさないって信頼してのピッチングでーす」 楽しそうに笑って「くーるーまー!」と急かすので仕方なしに車のあてがある友達に連絡をし、続いて準備する。 適当に服を着て、冷蔵庫にある飲み物とパンを持って、愛用のスニーカーに足を突っ込むとあいつがまたあの表情をした。 「だから何だよ、その顔は」 「目的地に着いたら教えてあげる」 「…あっそ」 「そうそう!今度またみんなと遊びに行こうね」 「お前やけにマネジ気に入ってたよな」 「まぁお世話になったし?」 「は?」 その意外な答えに目を丸めると、「ほらほら!早く!」とまた急かされ言われるがままに外へ出た。 長い間、「また今度ね」とはぐらかされていたことがついに明かされるらしい。 それは俺がいつも思っていた心当たりと、やはり関係があるのだろうか。 どっちにしろ、目的地に着いてから明かされることを聞かなければ分からないことだ。 車を借りるために歩くいつもの道のりを、どちらともなく手を繋いで歩く。 鬱陶しいほど湿気を含んだ空気が何故か不思議と特別に感じる朝だった。 時をかけた少女 (願いは証によって現実となる) 「行き先はここだよ」 手馴れた手つきでカーナビを操作した先は、行くには少し早い、海。 |