時をかけた少女 | ナノ



01


夏が始まる前に通り過ぎる短い季節。
私たちはそれを梅雨と呼び、毎日続くシトシト雨に不快を示さずにはいられない。
どんよりと曇った空はどうしても気分を滅入らせるし、降り続ける雨は更に気分を最悪にさせた。
それでも私たち学生はどれだけ気分が悪かろうが、面倒臭がろうが、暴風警報が出ない限り学校が休みになることはない地域に住んでいるのだから、当然8時30分にはホームルームが始まる。
ギリギリの時間まで寝て、ギリギリの時間のバスに乗って、コンビニで買ったビニール傘をさして、毎日通る少し大きな横断歩道を渡ればそこに友達が待っていて、「おはよー」と気だるく挨拶をすれば今日が始まるのだ。
雨のせいで憂鬱で、退屈で、だけど楽しみな学校。
矛盾したこの感情の奥にある想いは初めて抱いた淡い気持ちで、今日は少しでも話せるだろうか、と心を弾ませながら渡る少し大きな横断歩道でそれは起こった。


「・・・逃げろ!」


当たり前の今日が、始まるはずだった。
この横断歩道の先には友達が待っていて、「おはよー」と気だるく挨拶をするはずだった。
ただ覚えているのは、異様にスローモーションに進む景色と目を見開き叫ぶ初恋の男の子の声。


時をかけた少女
(雨が咲く)


雨は嫌い。
曇った空は気分を滅入らせるし、湿気で髪はゴワゴワするし、ローファーがビショビショになって靴下が濡れる。
だから、雨は嫌い。

だけど雨のおかげで、あなたに会えた。
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