26 「言うんじゃねぇぞ、絶対」 「阿部、」 「絶対に言うな」 「マネジさんから、聞いたんだね」 「お前が言葉にできないんなら俺が言う。何回だって言ってやる。だから、だから絶対に、お前は言うんじゃねぇぞ」 私が何か言葉を発そうとするたびに強くなる阿部の腕が、切なかった。 やっと、通じ合えた想いはあまりにも残酷だ。 私がここで過ごした時間は幻のように消えてしまうのだろうか。 雨降りの季節に起こった不思議な出来事は、雨降りの季節が終わるまでの奇跡だったのかもしれない。 もう夏が、すぐそこに迫っている。 「帰せるわけねぇだろ」 掠れる声が耳元で響いた。 「5年間ずっと女々しく引きずって、」 腕の力が少しだけ緩む。 「やっと、逢えたんだ」 余計に切なくて苦しくて、私たちの距離を遠くする。 「お前がいなくなるんだったら俺は、そんな言葉はいらない」 だけど真っ直ぐに伝わる阿部の言葉や気持ちが、私には何より嬉しいことも確かだった。 「頼むから行かないでくれ」 精一杯背伸びをして、弱々しく呟く阿部の頭を抱きしめる。 「もし、私が戻って過去を変えられたら阿部は私とのこの生活を忘れちゃうのかな」 「何、言ってんだよ」 「私は、阿部と一緒に大人になりたかったよ」 ねぇ、阿部。 阿部は、ずっとずっと私を想って生きてきてくれたんだね。 たった数ヶ月しか一緒に過ごせなかった私なんかを、5年間も忘れずにいてくれてありがとう。 だから私、ここに来れたのだろう。 約束しよう。 守るための約束を。 「また2人で、この海に来ようね」 何度も何度も、ここに来よう。 ずっとずっと、2人で来よう。 時をかけた少女 (帳の中では眠らぬ光) 「その時は、阿部と同い年の私だよ」 |