時をかけた少女 | ナノ



25

「やっぱり、言わないわけにはいかないと思って」
「何で早く言わなかった!?」
「安心してるあんたの顔見たら、言えなかったんだよ」

申し訳なさそうな顔で「ごめん」と一言謝るマネジに苛立ちを隠して、グッと拳に力を込める。
そんな大事なこと、何であいつも黙っていたんだ。

「その様子だと何も聞いてなかったんだ?」

考え込むような、そういう仕草はよく見るようになったとは思っていた。

「あんたは、どうするつもり?」
「どうするって、」
「もー!普通分かるでしょ!あの子のあんたに対する気持ち!」
「いや、それは…」
「あの子だって、阿部のことが好きなんだよ」

俺の胸に拳を突き当てて「鈍感!」と叱咤を一発。
正直、全くそんなふうに思ったことなんてなかった。
いつも心にあったのは笑っててほしい、ただそれだけでアイツの気持ちがどうかなんて考えもしなかった。
逢えるはずのない想い人がいる、それだけで十分だったのだ。
それは今でも変わらない。
だから言葉なんてなくても、俺はいい。

「そうは言うけどさ、人間は貪欲になるよ。最初は近くにいられるだけでいいって思ってても、気持ちが通じ合ってるって分かったら次は言葉をほしがる。もっともっとってなる。触れたくなる。きっといつまでもこのままで、とはいかないんじゃない?」
「あいつがいなくなる方が俺には耐えらんねぇよ」
「阿部はそうでもあの子は?」
「あいつ?」
「言葉にしたい想いを口に出せない辛さ、押し付けるつもり?」
「それでも俺は、」

もう、失いたくないと思うことはそんなにもいけないことなのか。


連れて来た海辺で泣きじゃくる細い肩を抱きしめる以上、俺にできることなんて何1つなかったんだ。



時をかけた少女
(しあわせを願う)


ただ離したくない、失いたくない、そんな当たり前のことがこんなにも。
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