24 「車なんて持ってたんだ」 「いや、サークルのヤツからいつも借りてる」 「免許は?」 「持ってねぇと乗せらんねぇだろ」 笑いながら助手席のドアを開けて「どーぞ」と促されるままに、乗り慣れない車の中に入る。 「どこに行くの?」 「まぁ着いてからの楽しみってことで」 乗り慣れていない私とは対照的に、手馴れた動作で車が発進した。 薄暗くなり始めた景色をぐんぐんと追い抜いて行く窓を見ながら、窓に映る阿部を覗く。 大人の表情で、初めて見る運転する姿。 毎日毎日見つけてしまう阿部の新しいところ。 それがまた離れがたくなる原因だというのに。 「もうすぐ夏になっちゃうね」 「そうだな」 さっき阿部が言ってくれた言葉に、私は答えられなかったけれど阿部は何も言わなかった。 その物言わない大きな背中が今の私には辛いことを、阿部は分かっているのかな。 沈黙の続く社内で流れている音楽は、私の大好きな『時をかける少女』の曲だった。 変わらないもの探していた あの日の君を忘れはしない 時をこえてく想いがある 僕は今すぐ君に逢いたい 私がいなくなったら、阿部もそんなふうに思ってくれるのだろうか。 「疲れたか?」 「ううん」 「もうすぐ着くからな」 「うん」 短いやりとりの後、静かに止まった車の中から見える景色に見覚えがあった。 「ここって前に連れて来てくれた…海?」 「そう」 「前は電車だったのに」 「車借りらんなかったんだよ」 あの時も不安に潰されそうでどうしたらいいのか分からなくて、阿部が連れ出してくれたんだっけ。 もう随分と前のような気がするけど、あの頃からずっと私は阿部に救われてばかりだ。 「また来るぞ」 「…阿部」 「何回でも来るから」 「あのね、阿部、」 「だから、勝手にいなくなるんじゃねぇぞ」 どこまで何を知ってて阿部がそう言ったのかなんて分からない。 だけどやっぱり私は泣いてしまって、あの時のまま何も変わっていない自分がもどかしかった。 時をかけた少女 (寄る辺で響く音) 「話したいことが、あるの」 例えそれが、2人にとって最善の方法でなかったとしても。 |