23 「んー、よく寝たー!」と暢気に目覚めれば、朝一番で阿部に頭を叩かれ、ガミガミと説教を食らってしまった。 だけどそれはものすごく心配をしていてくれたことの裏返しだということは、流石の私も分かっていて「ごめんなさい」とシュンと頭を垂れると、「気を付けろよ」と寝不足丸出しの目が笑った。 本当に、本当に心配をかけたんだ。 そんな申し訳なさの中、戻ってきたいつも通り日常。 朝起きて、阿部とご飯を作って、阿部に「いってらっしゃい」を言って、そう、いつも通りの日常だ。 ただ1つ違うのは、考え事をする時間が増えたこと。 そろそろ身の振り方を考えなくちゃいけないのかもしれない。 と言ったら大袈裟だろうか。 身の振り方なんて言っても私に残された選択肢は2つだけ。 このままずっと阿部に迷惑かけながらここにいるか、気持ちを告げてここから去るか。 どちらにしても阿部にも相談しなければいけないことだけれど、決めるのは私だということに変わりはない。 もうすぐ日が暮れそうな空を窓から見上げていると、「ただいま」と低い声が届いた。 「あ、おかえり。今日早いね」 「ちょっと出るから準備しろよ」 「買出しは2日前にしたよ?」 「いいから、外で待ってるぞ」 言われるままに急いで外に出ると、阿部が静かに鍵を閉めて歩き出す。 少し早めの歩調にいつもと違う何かを感じた。 「阿部、どうかした?」 「…お前さ」 「うん」 「戻りたい、とかって思ったりする時…ある?」 変わらず歩き続けながら、問われた内容の答えを探す。 探さなければ見つからないことに自分でも驚く。 「そう言えば、考えたことなかったかも」 阿部に迷惑かけてるとか、家族は元気かなとか、そういうことを考えることはあっても『帰りたい』と思ったことはないかもしれない。 不便がないわけじゃないこの生活に、居心地の良ささえ感じていた。 阿部の傍が、当たり前になって来ている。 「阿部は、」 「ん?」 「戻ってほしい、とか思う?」 言いにくいに決まっていることを聞いてしまうのは、キッカケがほしいんだろうか。 阿部が頷けば、私は迷うことなく今すぐにでもここから去る決意ができる。 頷いて(頷かないで) そしたら私は笑って、やっと気持ちを伝えられるから(だけどそれは…) そしたら阿部はやっと阿部の生活に戻れるよ(私のいない毎日が当たり前になるんだ) 阿部の答えを待ちながら、相反する想いが錯綜する。 頷いて。 頷かないで。 「答えになってねぇけど、」 小さく笑いながら私に大きな背中を向けて今まで聞いたどんな言葉よりも優しい響きで、阿部が言った。 「好きなだけいろよ。何があっても守ってやっから」 時をかけた少女 (ゆうぐれ、とわに) 言えないよ。 |