時をかけた少女 | ナノ



22

「悪かったな…どうだ?」
「さっき眠ったところだよ」
「そっか」

風邪薬やら果物やらを抱え込んで、肩で息をする阿部が帰って来た。
いつもならその様子を笑い者にしてやるところだけれど、さっき目の当たりにしたものの方がずっと衝撃だった。
阿部に言うべきなのだろうか。
そう考えると言うべきだという答えに行きつくけれど、言えないと感情が訴える。

「この子、何も言わなかった?」
「何が?」
「ほら、この間あたしと会った時のこと」
「いや、特に何も」
「そう」

おもむろに本棚から卒業アルバムを取り出し「何してんだよ!」と怒気交じりの阿部の制止なんてお構いなしに、例のページを開いて見せる。
どんどんを見開かれる阿部の瞳が、「知ってた、のか」という言葉と共に揺れた。

「こっそり見たことあってさ、最初はまさかって思ったよ」
「だろうな」
「だけど見ればみるほどこの女の子だし、あんたのあの表情見ちゃったらね」

貼られてある写真を眺めながら苦笑する。
3年前に見た時よりも、明らかにページが汚れていた。
変えられない想いを募らせて、一体どれだけこのページをめくったのだろう。
手の中のそれをパタンと閉じ、視線を阿部に戻す。

「非科学的なこと、信じてみたくなっちゃった」

そんなあたしの言葉に阿部が笑った。
バッカじゃねぇの、なんて失礼なことを言ってから、「サンキュ」と安堵の表情を浮かべる。
きっと色々1人で背負ってたんだということは、言われなくても分かった。

「こいつには言ったのか」
「うん、つい好奇心で」
「何話してたんだよ」
「内緒」
「…あ?」
「女の子同士の話に、男は立ち入らないのが常識でしょ?」

久しぶりに見る阿部の安心した表情に、あの出来事を伝えるタイミングをすっかりと逃してしまった。
いつかは知れること。
だからこそ早く教えてあげるべきこと。
そう分かってても、ずっと1人で背負って来た阿部が初めて肩の荷を降ろした今、言うべきことじゃないと思った。


時をかけた少女
(わたしは語る言葉を持たない)


「で、手は出してないでしょうね?」
「…出してねぇよ」
「何よその間は!?怪しい!」

ほんの小さなことしかできないけど、あたしはあんたの味方だよ。
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