20 抱き締められて思ったことは、阿部のことが好きだということ。 そんなこと、とっくに分かってたことなのにまるで初めて気付いた気持ちのように、それはとても鮮明で温かかった。 15歳だった阿部とはどこか別人に感じていた20歳の阿部に私はきっと。新しく恋をした。 20歳の阿部を色々知っていくうちに、15歳のままの阿部を見つけるたびに、どんどんと大きくなっていくこの気持ちは、いつの間のか私の心から溢れそうになっている。 いつ、その言葉が出でしまうかは私にも分からないほどに。 「帰って来るまで大人しくしてろよ」 ロマンチックな出来事だったと思う。 本当に、幸せを肌で感じた瞬間だった。 手を繋いだ時以上に直接感じた阿部の体温がとても大きくて、とても優しくて、雨で冷えた体にはあまりにも愛しく響いた。 照れやら何やらで、その後は何を話してどういう経緯で家にまで帰ったのかはあまり覚えていないけれど、幸せの余韻に浸るというよりはいつもと違うお互いの雰囲気に気付かない振りで精一杯だったのは、辛うじて頭に残っている。 そこから何か発展したのか、もしくは進展があったのか、そこは少し聞いてほしくはないところだ。 あの雨に打たれたせいで、見事に風邪を引いて布団から一切出られないくらいに体調を崩してしまうなんて、空気が読めないにもほどがある。 「あべ」 「ん?」 「早く、帰って来てね」 その言葉は言ってはいけないと言い聞かせてきた言葉。 阿部には阿部の生活があることは当たり前で、ただでさえ私を1人にしないように気を遣ってくれているのに、これ以上我儘は言えない。 どれだけ寂しくても、阿部が自分の時間を過ごす邪魔だけはしたくはない。 そんな想いで阿部を送り出すたびに心の中でだけ呟いていた言葉が、ついに声となって伝わってしまった。 風邪をひくと心細くなるっていうのは本当らしい。 あれだけ堪えていた言葉をいとも簡単に言ってしまうのは、相当弱っている証拠だ。 「当たり前だろ、いつもより早く帰るから大人しく寝てろ」 「…うん」 「じゃ、いってくっから」 「いってらっしゃい」 行かないで。 呼び止める権利なんて何ひとつ持ち合わせていないことを、今更ながらに思い知る。 私は阿部の何でもないのだ。 強いて言うなら、ただの迷惑ばかりかける居候。 阿部には阿部の時間があって生活がある。 そう、私には行かないでと言えるものを持っているはずもない。 目の前を通る焼けた腕を無意識に掴もうとして思い留まった手が、空を切った。 そしてドアの閉まる音だけがただ寂しく部屋に響き、私はとうとうひとりぼっちになってしまった。 時をかけた少女 (声をください) 「…寂しいよ」 阿部の温もりが残る床に手を置くと、そこはもうひんやりと冷たかった。 |