14 何気ない毎日が続いていると、人はそれが当たり前に続いていくと思う生き物だ。 例に漏れず私も当たり前にそんな日常を生きている時に、それは起こった。 「待って、何それ、聞いてないよ」 「そりゃ今、初めて言ったからな」 落ち着き払ってそう言い放つ阿部に、開いた口が塞がらなかった。 何でそんなに冷静でいられるのか。 こんなにも焦っているのは私がおかしいようにすら感じる。 「妙に落ち着いてるけど分かってる?状況は阿部にかなり不利なんだよ」 「何がだよ」 「一緒に住んでること知られたら間違いなくロリコン野郎っていうレッテル貼られるからね」 「貼られねぇよ!」 「しかも家族から、悲しい視線つきで」 「見られねぇよ!」 とりあえずそんなことはどうでもいい。 どうしてこんな低次元な言い合いをするはめになったのか。 それは阿部が帰って来た途端に発した言葉が発端だった。 「明日、親来るから」 それは結婚を意識し合ってる恋人同士の会話ならなんて素敵な話でしょう!っていうオチかもしれないけれど、私たちには非常に困る話だ。 この状態を知られる事態だけは何があっても回避しなければならないことは明らかで、慌しく駆け巡る私の思考とは対照的に落ち着き払ってる阿部はテレビを観ながらお茶をすすっている。 そんな阿部を無視して色々考えを張り巡らせるものの、結局出てくる結論は『私が外で時間を潰す』という単純かつ明快なものだけだった。 だけど言葉にならない腹立たしさが込み上げる。 1人で買い物にも行かせてくれないくせに、都合悪くなったら勝手にしろっていうのはどういう了見だ。 「何だよ、その訝しい目は」 「分かってるよ。男は都合が悪くなったらすぐ投げ出すってことくらい…」 「誤解招くような言い方すんな!」 「だって、」 「大丈夫、手は打ってる」 じゃないとこんな落ち着いてられっかよ、なんてケロっと言う阿部に自分の瞳が希望に満ち溢れた瞳になっていることが分かった。 「マネジに頼んどいたから」 「は…?」 「だから、1日お前についててもらえるようにマネジに頼んだんだよ」 「ちょっと!」 「お前は俺の家出した困った親戚だからな、女優になれ」 「ちょっとちょっと!」 「うるせぇ、それしか生き残る道はない」 「ちょっとちょっとちょっと!」 時をかけた少女 (三度呼んでも空気が壊れなかったので) 明らかに悪い方向へ開き直った阿部はもう一度「お前は、女優だ」と力強く言ってから私の肩に手を置いた。 もしかして阿部、相当切羽詰ってる? |