時をかけた少女 | ナノ



13

それから何事もなく毎日が過ぎ、この生活にも随分慣れた。
あまりにも寝ぼすけな私に阿部がすごく呆れていることもあって、最近は頑張って早起きをして阿部と一緒に朝ご飯を作るのが日課になっている。
これが意外に楽しい。
まだまだおぼつかない私の手つきにハラハラする阿部が、口うるさく色々と言って来るのは高校生の時の阿部のままだ。
阿部がよく三橋くんにしているような、そんな感じが何だかおかしい。
そんなこと言ったらまた怒られるだろうから、言わないけれど。

「何で朝からこんな疲れなきゃなんねぇんだよ…」
「でもちょっとは上達したでしょ?」
「ちょっとな、マジでほんのちょっとな」
「阿部のそういう意地の悪さにも慣れてきたよ」

朝ご飯を食べて後片付けは私の仕事。
食器を洗っていると阿部が準備を終えて玄関に向かう時、「いってらっしゃい」と言うのも当たり前の日常になった。
まるで新婚さんみたいなそれを、私は少し楽しんでいる。
律儀に阿部もこっちを向いて「いってきます」って言ってくれるからやっぱり嬉しくなるのだ。

「あ、ちょっと待って!」
「ん?」
「あのさ、晩ご飯の買い物、お昼のうちに行っとくよ」
「何で?」
「時間いっぱいあるし、そっちの方が効率的でしょ」

もちろんOKが出ると思っていた私は、お金をもらう手を準備する。
なのに阿部から言われた言葉は意外にもNOだった。

「何でよー」
「1人じゃ危ねぇだろ」
「もう道も覚えたし大丈夫だってば」
「ダメだ」
「阿部の過保護」
「何とでも。じゃぁいってくっから」

そう言っていつも通り学校へ行った阿部を見送り、のんびり洗濯と掃除をする。
今日は天気がいいから布団も干そう。
整理や掃除をしているといつも不思議に思うことがある。
阿部だって、いわゆる『男の人』だ。
田島がよくクラスに遊びに来ては下ネタを言いふらして帰ってたのを思い出し、やっぱり男の子ってそういう話が好きだろうしそういう本があったっておかしくないはずなのに、阿部の部屋には全くそういう類のものがない。
野球雑誌は呆れるほどあるのに、何だかちょっと心配になるけどそれもおかしな話だ。
16歳の女子高生が20歳の男の人に心配する内容じゃないし、阿部だって大きなお世話だろう。
でもやっぱり、少し気になる。

「ま、別にいいんだけど」

大きな音を立てながら掃除機をかけて、鼻歌交じりに布団を干せば午前中の予定は終了。
あとは長い長い午後をひたすら阿部が帰ってくるまで待つだけだ。
その時間がたまらなく長くて、少しでも気を紛らわしたくて提案した買い物だったのに、阿部は全く分かっていない。
まだかな?もう少しかな?
待つ身がこんなにも長いことなんて。


時をかけた少女
(まるで世界は寂しげに)


いつどうなるか分からない身の上だということは、私自身が一番分かっている。
だからこそ、少しでも一緒にいたくて色んなことを話したくて。
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