07 私にはかなり大きなTシャツとジャージのズボンを引きずりながら、試行錯誤で行った洗濯は思いのほか上手くできたと思う。 家のことはやらなくていいとは言われてるものの、やっぱり居候してる身としてはそうもいかなかった。 私がここで生活をするだけで、阿部には余計な労力と出費を強いていることを気付かないほど空気が読めないわけじゃない。 お金も行くあてもないのは変えられない事実なら、せめてできることはやりたいと思うのは当たり前のことだろう。 慣れない一仕事は結局お昼までかかり、阿部が置いていってくれたお昼ご飯のパンを何気なくつけたテレビを見ながら食べる。 お昼の番組と言えば主婦が夢中になるワイドショーが中心で、それに合わせた。 ニュースに取り上げられているのは見たこともない顔と聞いたこともない名前のアイドル同士の熱愛や、全く知らない野球選手の活躍。 嫌でもここが5年後の世界だということを思い知らされるそれらに、少しだけ気分が滅入った。 本当に全く知らないことばっかりだ。 ぼんやりと色とりどりな情報を発信するテレビを見ていると、だんだんと薄れていく意識。 昨日だって早くに寝たというのに自分のだらしなさを情けなく感じても、睡魔に勝てた試しがない16年間を生きてきた私はそれほど抵抗することなく、阿部のベッドに頭を腕だけを預けてうつ伏せる。 もちろん意識はすぐに遠のいて、現実に引き戻されたのは肩に何かがかけられる感覚を感じた時だった。 「ん…」 「わり、起こしちまった?」 「ううん、おかえりなさい」 「おぅ、ただいま」 瞼を擦りながら体を阿部の方へ向けると、差し出される大きめの袋。 少し戸惑いながらそれを受け取ると、中には色々と私には嬉しいものが入っていて「これ、阿部が?」と聞けばバツが悪そうに阿部が苦笑する。 「サークルのマネジに頼んだんだよ」 「でもどうやって、」 「親戚の女の子が丸腰で家出してきたからつった」 「…結構苦しいね、それ」 「自分でもそう思う」 「だけど嬉しい、ありがとう」 袋をギュっと抱きしめて、もう一度袋の中を確認すると下着と女の子の日には欠かせないものの他に、ワンピースが数枚と少し使い古された可愛いサンダルが入っている。 「マネジがさ、どうせ俺の服着させてんだろって気ぃ回してくれて着なくなった服とか譲ってくれたんだ。だから金はかかってねぇから気にすんなよ」 「でも下着は、阿部のお金でしょ?」 「ハーゲンダッツ強請った厚かましさはどこに行ったよ」 ニッと笑いながらもう一度差し出された小さな袋の中には、朝に私が言ったハーゲンダッツのキャラメル味が2つ無造作に入れられていた。 「これは晩飯終わってからな」 「うん」 「じゃぁ、さっさとそれに着替えて外に出て来いよ」 「え?」 「退屈だっただろ、晩飯の材料調達しに行くから一緒に行くぞ」 「…うん!」 花柄のワンピースに袖を通し、ドアの向こうで待っている阿部のもとへ。 時をかけた少女 (声に孤独がありませんように) 「お待たせ!」 デートみたいだね、なんて言ったらものすごく嫌な顔をされそうだけど。 |