11 ろくに眠ることもできないまま、カーテンから漏れ出る光で夜が明けたことを知る。 そんな涙ぐましい努力も知らずに、理性を揺るがす寝顔を披露するこいつには本当に参った。 こんなことが度々起こったら正直自信ないぞ、俺。 ベッドから追い出してゆっくり眠りたい気持ちを抑え、当たり前に眠い体を引きずって学校へ向かう準備をする。 いつも準備をし始めると起きるはずなのに、今もぐっすりと俺のベッドで丸まっているそれを見るとよっぽどその恐い夢とやらで疲れたんだろう。 けどな、俺だって眠いんだぞ? それでも起こせない俺は、やっぱり甘い。 玄関へ向かい愛用のスニーカーに足を突っ込んでドアを開けると、か細い声で「いってらっさい」と聞こえた。 声のする方へ視線を移せば、ベッドの中からモソっと手を挙げて振っている。 「いってきます」 毎日繰り返されるその言葉を残し鍵を閉め、止まらない欠伸をかみ殺しながらマンションを出ると「阿部だ!おっはよー!」なんて寝不足の頭にガツンを来る声が響いた。 「…はよ」 「何、その顔。スゴイことになってるよ」 「うっせ」 「寝不足?」 「まぁな」 「ふーん」 「…何だよ」 「あんた居候してる親戚の女の子とやらに手、出してないでしょうね?」 「はぁ!?」 自分の出した声がまた頭にガツンと響き、軽く眩暈がしそうな俺なんてお構いなしに「私、昨日見ちゃったんだよね」と面白おかしく話すサークルのマネジが意地悪く笑う。 「昨日あたしのあげたワンピース着た可愛い女の子と一緒に歩いてたでしょ。あの子が言ってた子?」 「…そうだよ」 「親しげだったから、流石家出して阿部を訪ねて来るだけあるなーって思ってたんだけど」 「あーそーだよ、仲いいんだよ俺ら。親戚としてな!」 「あんな愛しそうな目で見てたクセに?」 「あ?」 「あんな阿部の顔、3年間一緒にいるけど1回だけしか見たことないよ」 異様に鋭いその指摘に「気のせいだろ」と吐き捨てると「そう?じゃぁ勘違いか」なんて思ってもないことを言った。 明らかにいいネタを掴んだという目をしている。 「ま、それはこの際どーでもいいよ」 「あっそ」 「でもその寝不足だけど、無理矢理頑張ったんじゃないって信じていいよね?」 「…女のクセに下品なヤツだな」 「で、信じていいよね?」 「あた、」 り前だろ!と続くはずだった言葉はどんどんと尻すぼみしていく。 寝てる間にあいつの頬にしたアレは、そういう部類の入るのだろうか。 昨夜自分がしたことを思い返すと、隣から訝しい視線が投げかけられていることにハッとする。 「何もない!マジで!」 「今の動揺、怪しすぎる」 「鍵!鍵閉めたか不安になっただけだよ!」 「ふーん」 今回はそういうことにしといてあげる、と言いながらその顔は間違いなくアレを企んでいる。 こういう時に何かを察知てしまうのはやっぱり3年の付き合いだからだろうか。 「今日の学食よろしくね!」 「何でだよ!?」 時をかけた少女 (闇に悪魔が潜むので) 女という生き物の恐さを痛感した朝だった。 |