10 「…逃げろ!」 その声に気付いた時には自分の体は空中に投げ出されていて、痛みも衝撃も感じることはなかったけどただ、恐かった。 「…!」 びっしょりと寝汗をかいたTシャツがベタついて気持ち悪い。 肩で息をするくらいに慌てて目を覚ました理由は、あの出来事が夢として現れるからだ。 自分で思っているよりも恐怖だったらしいそれは、度々夢に見る。 いつもなら飛び上がるように起きて息を整え、深呼吸をしてから再び眠りにつけるのに、今日はどうしても寝付けなかった。 今また眠るとまたあの夢を見てしまいそうな予感がして、瞼と閉じることができない。 困ったな、まだ2時なのに。 このまま朝まで1人で起きているのは、正直辛いものがある。 起き上がったまま枕を抱いて、後ろにあるベッドにもたれると「…どした?」と眠たげな声が後ろから投げられた。 「ごめん、起こしちゃった?」 「いーから、どした」 「ちょっと、恐い夢を見ちゃってさ」 大丈夫だから、おやすみなさい。 そう言葉にしようとした時、後ろでもぞっと動く気配がする。 つられて後ろを振り向けば阿部が起き上がって私を心配そうに見ていて、思わず漏れた私の苦笑いを暗がりの中でも阿部は見落とさなかった。 ベッドにもたれる私の頭をガシガシと撫でる大きな手が、温かい。 それが私には安心を呼び寄せ、慣れない場所に来てからずっとこの手に助けられてきたのだ。 ねぇ、気付いてる? 私がどれだけ、阿部に安心感をもらっているのか。 こんなにも甘えた態度をとってしまうのは真夜中だからか、それとも恐い夢を見たせいだからか、とにかくいつもより不安だからということにしておきたい。 「阿部」 「んー」 「ベッド、入れてもらってもいい?」 「おぉ…って、はぁ!?」 真夜中のワンルームに響く阿部の声、それを無視していそいそとベッドに入る私。 「ちょ、おま…!待て待て待て!」 「もうちょっとそっち寄って」 「押すなって、オイてめ…!」 「おやすみなさーい」 本気で追い出そうと思えば、簡単にできたでしょ? 心底困った様子の阿部なんてお構いなしに瞼を閉じて安心する。 大丈夫、隣に阿部がいてくれるなら恐いことなんて何もないから。 時をかけた少女 (星の眠れる夜) 「危機感なさすぎ…」 なんて阿部が溜め息混じりに呟いていた頃にはもう、私は幸せな夢の中。 |