たまに軽口を叩きながらも、ふたりの手は止まることなく探索を続けていた。
気づけば、窓から射し込む光が柔らかなオレンジに染まり始めている。

ーーそれでも、手がかりは見つからないままだった。


「……もう夕方か」


快斗が時計に目を向けるより早く、
名前がそっと手を止めた。



「…今日はありがとうね、黒羽くん」

 

名前はふうっと息を吐くと、ゆっくり立ち上がる。
そして、窓辺へ歩み寄ると静かにカーテンを開けた。

校舎の屋根の向こうに、夕日がにじむように沈んでいく。

その光に照らされて、名前の髪がほのかに金色を帯びる。
沈む夕日を少し切なそうに見つめ、目を細める。



「…この高校に入ったの、父がここで美術の教師をしてたからなんだ」

「……教師?」

「うん。……亡くなってるの。私がすごく小さい頃に」



少し渋るように語った声は淡々としていたが、
快斗は、そこに滲んだ静かな哀しみに気づいていた。

 

「正直、ほとんど覚えてないんだ。でも、最後に見たときーー
絵を描いてるお父さんの横顔が、すごく優しかったことだけはずっと残ってる」

 

夕日を映す瞳は、遠い記憶を探るように細められる。

 

「そのとき、何を描いてたのか……ずっと気になってて」

「……そっか」

「でも、本当に小さな頃のことだから……もしかしたら、夢だったのかも」

 

小さく笑ったその横顔には、ほんのわずかなあきらめが滲んでいた。
快斗はその笑みに、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。

彼自身もまた、7年前に父を失っていた。
過去のことなのに、いまだに亡くなった父の影を追ってしまう自分がいる。

だからこそ、彼女の想いがどこか自分に重なって見えた。
 


「……諦めんなよ」

 

不意にこぼれた自分の声に、快斗自身も少し驚いた。
でも、込み上げてくる言葉を飲み込むことはできなかった。

 

「親父との大事な思い出なんだろ? …見つけようぜ。絵でも、何でも」

 

名前がはっとしたように快斗を見上げる。快斗は真剣な眼差しをしていた。
夕陽が差し込む中、名前の長いまつげがその頬に影を落とす。

 

「……黒羽くん」

 

かすれた声だったが、確かにそこに嬉しさがあった。
名前は深く息を吸い込み、胸の奥に溜まっていたものを静かに吐き出す。

 

「…私、実はさ、クラスで浮いてるんだよね…」

「……え、それ今言う? いや、まあちょっとわかるけど……」

 

突然の方向転換に目が点になる快斗。
名前はその反応に、ふふっと笑った。

快斗はその微笑みに、この雰囲気を崩した結果は彼女の思惑通りだったことに気付かされる。
どこまでも調子を狂わせる目の前の女の子に、思わず頭をかく快斗。



「だからさ…こうやって、放課後に誰かとこんな綺麗な夕日見れるだけで、すーっごく嬉しいんだ。
…ありがとう。黒羽くん」



この高校きてよかった、と続けて名前は優しく笑った。
夕焼けの中、その笑顔はどこかあたたかくて、けれど儚げでーー

 

(あ……)

 

その瞬間、快斗の中で、幼い頃の記憶がふっと蘇った。

母に連れられて訪れたフランスでのこと。そこで出会った迷子の女の子。
お父さんの絵を探してほしいと言って、自分の手を握った小さな手。

ーーほんとうにありがとう!

あのときの、夕陽のなかで見せてくれた無邪気な笑顔。



目を見開いていた快斗の表情が、少しずつやわらぎ、
嬉しそうに、優しく、微笑へと変わっていく。

 



「…………やっと、だな…」

「え?」




快斗は数秒だけ黙ったあと、名前の目の前に手をかざして軽く振ってみせた。

次の瞬間、彼の指先から小さなピンクのバラがふわりと現れる。
ーーー彼お得意の手品だった。

 



「オレ、快斗。黒羽快斗ってんだ。……よろしくな」





いたずらが成功したときのような、満足げな笑み。

名前は驚きに目を見張ると、少しだけ目を丸くして、それから花のように笑った。

ーーなんだか、あの時みたい…

そう心のなかで呟き、差し出されたバラを大事そうに受け取った。





「…私、名前っていいます。名字名前。…よろしくね、快斗くん」





高校1年生の5月上旬。
桜はすっかり散ってしまったけど、名前はようやく季節が動き出したように感じていた。

これからたくさんのことがあるだろうけど、きっと上手くいく。そう思えた。












再会 end





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