ーー冬の朝。受験会場前。
白い息がふわりと上がる寒空の下、制服の上にコートを羽織った受験生たちが行き交っていた。


中学3年生の名前は、一年前よりもほんの少し背が伸びていた。
以前よりあどけなさが抜けた面差しの中に、澄んだ可憐さが際立っていた。

名門と名高いお嬢様学校の制服も相まって、自然と周囲の視線が名前に集まる。
けれど当の本人は、そんな視線を意識する余裕もないほど、今はただ目の前のことに精一杯だった。



(……よりによって、こんな日に……)



まだ慣れない下腹部の鈍い痛みに、名前は思わず眉をしかめる。
痛み止めは飲んだ。ナプキンも替えた。だけど、本調子にはほど遠い。

試験前の緊張と不調。
そして、首席で合格しなければならないという重圧が、肩にのしかかっていた。


日々積み重ねてきた努力のおかげで、模試の成績は少しずつ右肩上がりになっていた。
それでも、最後の模試判定はーー2位。

最初の頃よりずっと良い成績だったが、
“あと一歩足りない”という結果が、かえって不安を煽っていた。



(……うわあ、もう…どんどん弱気になってる)



何か温かいものでも飲んで、少し落ち着こう。
そう思い立った名前は、青白い顔のまま自販機に向かう。



---



隣の自販機には、同じく受験生らしき女の子が立っていた。
少しウェーブのかかった髪が印象的な可愛らしい子で、小銭を財布から出そうと少し手間取っているようだった。


その時だった。


ーーひらり


風にあおられて、女の子の財布から一枚の紙が舞い上がる。
受験票だ。



「あっ――!」



名前は咄嗟にしゃがみ込み、地面に落ちる直前の受験票をキャッチした。

その拍子にーーゴンッ

勢いあまって自販機の下のフレームに、おでこをぶつける。



「わっ!? 大丈夫ですか!? …あっ、受験票!!」



音に驚いた女の子が慌てて駆け寄ってくる。
自分の受験票を落としかけたことに気づき、申し訳なさそうに頭を下げた。



「ご、ごめんね! おでこ痛いよね……」



おでこを摩る名前。
涙目にはなっていたが、それは痛みよりも、どちらかというと恥ずかしさのせいだった。
すごい音が鳴ってしまった。



「ううん!全然!むしろ目が覚めたかも……はいこれ。落ちなくてよかった」



名前がそう言ってにこやかに受験票を渡すと、女の子もほっとしたように微笑む。
そして、受験票を手渡す瞬間、ふと手が触れ合った。


「ほんとにありがとう……ーーって、わっ……手、すっごく冷たい!」


そう言うと、女の子は「ちょっと待っててね」と言いながらポケットを探りはじめ、
カイロと、あたたかい缶のお茶を取り出して差し出した。



「これ、よかったら! 受験票拾ってくれたお礼!」

「えっ……いいの……?」

「うん! 遠慮しないで!」



女の子はそう添えて、名前に優しく渡してくれた。

指先からじんわりと伝わるそのぬくもりと、目の前で笑うあたたかな表情に、
張りつめていた心の緊張がすこしずつほどけていくのを感じていた。



「……わあ、ありがとう。すごくあったまる……」



そんな名前の顔色が少しよくなったのを見て「よかった」と女の子は優しい笑みを浮かべた。



ーーそのとき、教室の方から男の子の声が響いた。


「おーい、青子ー! 早くしろよー!」

「うるさいなあ!もう行くよっ!」


それに負けじと元気よく返事をしたその女の子は、どうやら青子ちゃんという名前らしい。




「じゃあ……お互い、頑張ろう!」

「うん。頑張ろうね」




もう席に着いて待つようにというアナウンスが鳴るなか、
女の子はにこっと名前に笑って、教室の方へと向かっていく。



名前は去っていく女の子の背中を見送りながら「またね」と言いかけたが、
その言葉は口に出さず、心の中にそっとしまった。



ーー次は、あたたかい日差しのなかで。
この校舎であの子に会えますように。



そう願うと「よし」と言って自分の両頬をぱんと叩いた。

今この瞬間にできるすべてを出し切ろう。名前は真っ直ぐに試験会場へと歩き出した。









中学生編 end




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