「おかえり、漣」

目の前には双子の弟。あるはずの体温は既に無く、薄い唇からは二度と言葉を紡がれることはないだろう。

「なまえ、ボスが呼んでる」

漣の白い肌を撫で、別れを告げる。周りには私と漣の部下。ただひたすら漣の為だけに涙を流してくれていた。部下の一人に一言残し、私を呼びに来たマーモンと共に部屋を後にする。

「大丈夫か」

開口一番に発せられたものは意外なものであった。彼も人の子だったんだと、少し、動揺してしまった。

「…漣も幸せだと思う。こんなにも周りに想われて」

姉としても漣を誇りに思う。漣を弟に持てて私は幸せだ。

「9代目からの勅令だ。漣の葬式後、日本に発て」

渡された書類に軽く目を通す。イタリア語の羅列が私の目を覆い尽くした。

「これ、漣の任務と同じものじゃない」

任務の内容は10代目の護衛及び監視。そしてある少女の正体を探るというもの。生前、漣に9代目から言い渡された任務と同じものだった。

「恐らく、漣はこの任務中に殺された。ヴァリアーがぎゃあぎゃあ騒ぐ程のもんじゃねえ。漣が死ななきゃあな」

一般人だと思ってた奴らに私の片割れが殺された。誰かがボンゴレに仇なそうとしているのだろうか。

「本当にこの任務私がやってもいいの。私情を挟むかもしれない」
「百も承知だ。私情だろうと何だろうと、漣を殺し、ボンゴレに仇なした奴を」

ボスはそれ以上を言わなかった。わざわざ口にするほどのものでもない。ボスの考えは嫌というほどに伝わっている。

「出発時刻は」
「13:10。日本に着き次第部下どもに案内させる」

了承の意とともに一礼してからボスの部屋を後にする。騒がしいはずの屋敷は恐ろしい程静かだった。



-



翌日、漣の葬式は予定通り行われた。所々から聞こえる鼻を啜る音。所々から感じる幽かな殺気。

「姐さん、少し抜けるね」

ルッス姐さんからも僅かに殺気を感じる。押さえてるけど、それでも。

「あの場所に行くのね」
「うん」

屋敷を出て数分。海が一望出来る丘へやってきた。草木しかない、本当に何もない場所。私と漣のお気に入りの丘。

「来たよ。漣。ほら、見える?あんたの好きだった景色」

漣と最後に会った日に言った言葉。漣が私に宛てた、遺言。
「姉ちゃん、もし、俺が死んじゃったらさ、あの丘に連れてってよ」
漣は知ってたんだ。自分がどうなるかを。

「こんなに早く来るとは思わなかった、な」

半年前のことだった。いつもと変わりない笑顔で彼は私にさよならを言った。あの言葉が最期になるだなんて誰が予測できただろう、誰がそうなることを望んだだろう。どうして私は漣の辛さに気づいてあげることが出来なかったのだろう。

「姉ちゃんね、明日から漣と同じ任務に行くの」

景色を見せるために持ってきた漣の写真が濡れていく。

「多分、私情挟んじゃう」
「でも、任務は絶対成功させるからね」
「だから漣はゆっくり休んで。おやすみ、私の大切な弟」





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