想いを告げるつもりなんてさらさらなかった。今のままでいい。藤と友だちでいられるだけでいい。それで充分だった。
「ごめん、ごめん藤・・・!」
みよじは泣いてた。目に押し付けた薄い灰色のガーディガンは涙によって濃く色を変えた。みよじの顔が見えない。いつもの笑顔はそこにはない。なあ、なんで、
「なんで謝んだよ」
ずず、と鼻を啜る音が聞こえる。ポケットティッシュ、俺、持ってねえよ。
「藤、俺、」
お前のことが好きなんだ。
だからってなんで謝んだよ。なあ、おい。
「気持ち悪いだろ、ごめんな」
気持ち悪くねえよ、なあ。泣くなよ。
「せめて俺も女に生まれてたらな」
女に生まれたからってなんだよ。みよじはみよじじゃねえの。あ、やべえ、めんどくさくなってきた。
「もう、近付かねえから」
「は、」
え、え、え、ちょっと、おい。まじかよ、待てよ。なあ、なあ
「なあって、おい!」
「…藤だって知ってんじゃん。俺が、影で笑われてること」
知らないと言ったら嘘になる。ホモだとかそんなことで。美作が隣のクラスの奴を怒鳴っていたのは記憶に新しい。
「明日葉たちにも、さ。近づかねえ。保健室にも行かねえから」
その言葉を明日葉たちに言ったらどうなるだろう。悲しむんじゃねえの?連れ戻そうとすんじゃねえの?ぐだぐだ俺が考えてる間にみよじは俺の横を通りすぎ、教室の方向へと向かって行った。ただ、それが、馬鹿みたいだけど、一生の別れのような気がして。
「伊勢海老!」
口から出た言葉はあいつが食いたいていってた食べ物だった。
「食いたかったら来いよ!保健室!待ってから!」
「え、あ、藤!」
走り出した。本当は今日の弁当に伊勢海老は入ってない。
110831