落乱 諸泉尊奈門
「まだ、忘れていないのかい」
ばちりとした電撃が走る。
「くみがしら…」
「珍しいねえ、君がそんなにも」
見える面積はほんの少しであるのに、組頭が顔を歪ませたのがはっきりと分かった。
「笑わないで下さいよ」
「おや、ばれたかい」
またも組頭は愉快そうに笑う。この人だけはどうにも食えない。
忍びとしてはそれが正解ではあるが、それでもこの人のこういうところが偶に怖くなる。
「その花は村の娘から貰ったものだね」
「え、ああ、そうですが」
名前も知らない白く小さな花は、ずっと握っていたせいか少し萎れている。
「萎れてきているね」
「ずっと、握っていましたから」
すっと組頭は立ち上がり、竹筒に水を汲みはじめた。
どうしたのかとその光景を眺めていると、組頭は僕の手から花を抜き取りそのまま竹筒に花を挿した。
「さあ、任務の時間だ。行くよ」
「え、でも花は…」
花を挿した竹筒は少し小さめの岩に立てかけたまま。
「あの娘のことは今すぐ忘れるんだ」
「君は忍者、あの娘は村の娘。君は若い、恋をしたくなるのは分かる」
「けれど、君の恋は、本物か?」
組頭に睨まれて数秒が経った。
その間に頬に一筋の線が伝った。
レプリカの青春で駆けていく
恋に恋をしているんだと、組頭は吐き捨てた。
110209
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企画サイト無報様提出作品