どうしてこんなにも、シマという子の言葉を嬉しく思っているのか。
誉められるのも好意を持たれるのも珍しいことじゃない。でもあんなに素直な、余計なものを孕まないまっさらな好意を受けたのは、初めてかもしれない。
ただ純粋に俺たちを見て評価し、尊敬して好きと言ってくれていた。頑張っていると言われた。その頑張りを見せないところがカッコいいと言われた。
どくん、と、心臓が不可解に軋んだ。
「っ──?」
なんだろう、今の。胸のあたりがもやもやする。全身が変に疼いて、顔が、熱い。
謎の衝動をやり過ごすために大きく息を吐いてそのまま机に突っ伏した俺は、やけに静まり返っている室内で、他の役員たちがどんな顔をしているかなんて気にする余裕もなかった。
後日、生徒会室のパソコンで管理しているデータベースで、『シマ』と『ユウセイ』というキーワードで、さらに一年生に絞って検索をかけてみた。
1年E組、縞優生。
そっか。シマがそのまま名字だったんだ。へえ、縞クンかー。E組ということは、あまり頭は良くないんだろうな。確かに話してた感じだとちょっと頭ゆるそうだったもんね。どんな顔をしているんだろう。身長はどれくらいで、髪型はどんな感じで、何色かな?
縞クン、面食いだって言ってたし、生徒会のことも好きらしいし、もしも俺が話しかけたりしたらどんな反応をするんだろう。
顔も知らない会ったこともない人間のことを考えながら、パソコンの画面の『縞優生』という文字をそっと指先でなぞった。
俺は自分がどうしてこんなことをしているのかわからなかった。ただ衝動のように突き上げてくる知りたいという欲求に、逆らうことなんて思いつきもしなかった。
仕事中も、勉強中も、セックスしているときだって、なぜか縞クンのことが頭から離れなくて。のっぺらぼうのまま俺の頭に居座る縞クンのことが気になりすぎて、そのうち相手が女でも男でも勃たなくなった。まあ男相手のときはもともと人間サイズのオナホールを使ってるという認識だったので、勃たなくてもべつに困らないんだけど。
そんな自分の変調の原因もわからないまま、あっという間に年末の忘年会イベントも終わり、俺はようやく実家へと帰省した。
それからすぐに冬休みも終わり、新学期が始まった。
こんなに新学期を楽しみにしていたのは人生で初めてだ。
始業式では生徒会長からの挨拶があり、俺たちその他のメンバーも壇上にあがっている。
会長が挨拶をしている後ろで、俺はホール内を眺めながら鼓動を逸らせていた。この中に縞クンもいるのかと思うと、わけもなく楽しくなってくる。
集会を行うこのホールは広い映画館のような造りになっている。もちろん生徒ひとりひとりの顔なんてここからではわからない。
それなのに探してしまう。顔もわからない縞クンを。
まあ当然見つけられるわけもないんだけど。