骸雲 | ナノ

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- 繰り返し -


※ホラー












目が覚めると、古ぼけた洋室のベッドにいた。
窓枠にくもの巣が張られ、強風が吹けば割れてしまうのではないかというくらい、柔いガラスから月明かりが差し込む。
月は半分雲に覆われていた。



繰り返し




ベッドの毛布や枕はカビ臭く、茶色く変色している。
おそらく、太陽光による紫外線と埃が原因のようだ。
部屋を敷きつめる絨毯は、立派なものだがどこか汚らしい。

何か明かりを、と思いサイドテーブルに置かれたろうそくのランプに火をつけた。


あの部屋にいたくなかったので、部屋から出た。
歩くたびに床は軋み、その音が寂れたこの洋館にこだまする。
誰もいない洋館に。

不思議と怖くはなかった。
ただ、なぜ自分がここにいるのかは依然として分からないままである。
部屋を1つ1つ確かめたり、広間や応接室、リビングにキッチン…。
全て確かめても、全てが洋館の古ぼけた1つ1つだった。
雰囲気としては、昔誰かが住んで賑わいを見せた華やかな屋敷だったのが、人が居なくなり手入れが行き届かなくなったボロ洋館といった感じだ。




まだ見ていない部屋を発見し中に入ると、大きくて広い洗面所だった。
錆びている蛇口を捻ると、ギィー、と嫌な音をたてて蛇口が回った。
水が出た。
意外にも綺麗な水なので、浄水場からリアルタイムで水が供給されていることが分かった。
ふと、頭の隅で誰が水道代を?とか、こんな山奥の屋敷に誰が水道代を回収しに?と疑問になり、口元が緩んだ。

防腐剤を使用している鏡なのに、鏡の縁の殆どが腐敗している。改めてこの洋館の歴史を感じさせられた。




鏡を見つめていると、鏡の中に骸の姿が現れた。
今まで不思議な気持ちに包まれ、疲れていた僕の心の緊張が一気に溶けだした。
鏡の骸の輪郭を指でなぞったり、鏡越しに手を重ねあったり、微笑む骸の表情を堪能していると、急に骸が焦った顔をして口を早急に動かし始めた。
何を言っているのか分からない。
骸の口の動きから言葉の意味を必死に理解しようとしたとき、僕は埃をかぶった床にキスをしてしまった。
誰かに殴られ、倒れたのだ。
首筋に生暖かさを、鼻で鉄の匂い感じ、血が出ていることが分かった。
鏡に目を向けると、骸が悲しそうな顔をして僕を見ていた。
後ろに目を向けると、黒い人が僕の血で濡れた斧を持って立っている。
いや、人じゃないかもしれない。黒い影の様な人の形のモヤモヤとした物体が立っていた。
その物体の腕が勢いよく上がり、斧が降り下ろされた。
と、同時に僕の意識は途切れた。









今日の僕はついている。なんてラッキーなんだろう。
なぜか、今までこの洋館で目覚め殺されの繰り返しを覚えている。
どうやら普段は、1日ごとに記憶が消され、繰り返しの日々を新しい1日だと思っていたらしい。
今日で1245920078回目だというのも知っている。
十億を超える位これを繰り返していたなんてぞっとした。
でも今日で終わり。
僕は洗面所へ行かないで、一目散に出口へ向かうよ。
骸がいるかもしれないところへ帰るんだ。
待ってて骸。


























可哀想な恭弥くん。
あなたは何も憶えていないんですね。
任務で死んでしまった僕をあなたは生き返らせてくれました。
そのかわりあなたの死後は地獄行きです。
悪魔との契約ですからね。
それでもあなたは僕を生き返らせてくれました。
なのにあなたは僕が息をふきかえしてから半年足らずで死んでしまった!
こんなことなら、あなたと天国で結ばれたかった!

あなたのいない灰色の世界で僕は生き続けました。
蘇った人間は悪魔との契約もできないし、自殺もできません。
寿命をまっとうするしか死ぬ方法はないのです。
君を生き返らせることで僕も地獄に行きたかった。
たくさん悪いことをして地獄に行きたかった。
でも、あなたの愛で蘇った僕は地獄へ行くことは許されないのです!

僕がその寿命をまっとうし、死んでからずいぶん経ちました。
せめてあなたを一目でも見ようと、僕は地獄のあなたの前に鏡の中から姿を現します。



あなたは知らないのです。
洋館から飛び出すとどうなるのか。
今日のあなたはついていると思ってますが、それもまた繰り返しなのです。
あなたが洋館を飛び出しても影に殺され、記憶を失い、またあの日々の繰り返しとなるのです。
なんて可哀想な恭弥くん。
僕はあなたに何もしてあげられません。


逃げることのできない死の繰り返し。
それが地獄です。





























愛してるよ骸。
いつかここから抜け出して君に会いに行くよ。
必ず。


愛してますよ恭弥くん。
二度と会えませんが鏡の中から毎日あなたの前に姿を現します。
奇跡が起こることをを願って。

































09/11/3
10/3/1
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