骸雲 | ナノ

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- ふたりぼっちの世界 -


どうしてでしょう。世界には僕と雲雀くんしかいなくなってしまいました。



何年か前に核戦争が勃発したんです。どんなに頑丈なフィルターに避難していても、どんなに放射能から身体を守る薬を投与していても、みんな人間は死に絶えてしまったのです。
僕と雲雀くんは、原因は分かりませんが、放射能にも冒されず今日まで世界で二人きりのまま生きてきました。もしかしたら、他にも何らかの原因で生き残っている人達がいるかもしれません。しかし、交通手段も通信手段も何もない原始的なこの状況で他の人達の生存を確認することは限りなく不可能なのです。

幸いにも、汚水を濾過して飲料水にする機械や何万人もの人間が生き延びると想定されて用意されてある大量の食糧があるので、僕たちは生き続けています。
それでもちっとも幸せではありません。赤褐色の空に、どこまでも果てしなく荒れ果てた大地、植物たちは辛うじて息を吹き返しつつありますが、この濁った世界にはその有り難い命の緑が不自然で寧ろ奇妙な雰囲気を醸し出す一因と化しています。
雲雀くんの存在だけが何物にも代え難い僕の生きる希望なのです。





「骸、外が大変なことになってるよ。」


壊れかけたシェルターの中で雲雀くんに起こされ、外に出てみると本当に大変なことになっていました。こんな光景を前に見たのはいったい何時(いつ)でしょう。


「何が起こっているんでしょうか。まだ信じられなくて夢を見ているみたいだ。」

「僕もまだ信じられないよ。」


空は晴れ渡り、透き通るような青はどこまでも続いていました。灰色じゃなくて真っ白な雲があちこちにちりばめられ、植物の緑が生き生きと僕の目に映りました。空気もどことなく澄み切っている気がします。
雲雀くんは楽しそうに僕の手を引いて、倒壊したビルが積み重なってできた丘の上に走り出しました。僕も雲雀くんの手を強く握りしめ、肺に空気をいっぱい吸い込んでから走りました。
丘の上に寝転んで空を見上げると、眩しくて目を開けることができず、太陽が出ていることが分かりました。こんなにはっきりと太陽の暖かさや存在を認識したのは久しぶりなので嬉しくて嬉しくて、僕の頬にも雲雀くんの頬にも涙が伝いました。


「太陽ってこんなに暖かいんだね。」

「気持ちいいですね。」


いつしか僕たちは眠ってしまいました。しばらく眠った後は空を見ながら、ずっと昔のまだたくさん人間が生きていた時代の楽しかった思い出の話をいっぱいしました。こんな風に笑いあったり、雲雀くんの笑った顔を見るのはここ何年もなかったので、それだけで僕はまた涙を流してしまいました。いつからこんなに涙もろくなってしまったのでしょう。




僕は雲雀くんの首に手をかけました。雲雀くんはくすぐったいと言いながらにこにこしていました。こんな雲雀くんのことが僕は大好きです。もう二度と雲雀くんの悲しむ顔を見たくないと強く思いました。その思いに比例して僕の手には力が入り、雲雀くんの首をぎゅうっと締め付けました。雲雀くんは苦しそうにしつつもきょとんとしたような顔で僕の目をじっと見ていました。しばらくすると「なぜ?」と訴えかけているような雲雀くんの目は閉じられ、代わりに雲雀くんの口元はにっこりとしていました。その後すぐに雲雀くんの息は絶えてしまいました。
僕はそんな雲雀くんにキスをして、その身体を抱き上げて、こっそり持ってきたレーザー銃で自分の頭を撃ち抜きました。
僕と雲雀くんは、日だまりの中で抱き合うように倒れ込み、いつまでもいつまでも倒れ込んだまま動きませんでした。






















2011/3/28
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