- 僕は君のとりこ -
付き合っててもちっとも良いところなんてないんです。むしろ大変なことばっかりで。僕の身体のあちこちが雲雀くんに殴られた痕で痛々しく飾り付けられています。
わがままな雲雀くんは僕が殴り返さないと気が済まないみたいなので、恋人同士なのに毎日大喧嘩をしてるかのような闘いが僕たちの間では繰り広げられています。ですから、もちろん雲雀くんの身体も痛々しい傷で飾り付けられているわけです。
「見てください雲雀くん、駅前に新しくドーナツ屋さんができていたのでたくさんドーナツ買ってきましたよ。」
僕が応接室のテーブルに買ってきたばかりのドーナツの箱を置くと、何か書き物をしていた雲雀くんの手がピタリと止まり、顔を動かすことなく器用に目だけをこちらに向けてドーナツを見た後、僕の方に一瞬だけ目を向けてそれからすぐにまた自分の手元の紙の方を向いてしまいました。
「ねえ雲雀くん、無視はやめてください。」
「チョコレートかかってるの嫌いだから。」
「はい?」
「チョコレートがかかってるドーナツが嫌いって言ってるの。」
僕としたことが、どうやら自分の好きなチョコレートのかかったドーナツが4つとチョコレートのかかっていないドーナツが2つという最悪な選択をしてしまったようです。僕が箱の中を覗いたまま黙り込んだのを怪しく思った雲雀くんは書き物をやめて僕の横に立ち、僕と同じようにチョコレートのかかったドーナツだらけの箱の中を覗き込みました。
「……………」
無言で鋭い視線を送ってくる雲雀くん。今度は僕の顔を覗き込む雲雀くん。僕は果たして雲雀にまたいつものように殴られてしまうのか、はたまたチョコレートのかかっていないドーナツを買いに行けと命じられてしまうのか。そんなことを考えながらも、雲雀くんが穴があきそうなくらいに僕を見つめるので僕の顔はみるみるうちに真っ赤になっていきました。
「ふん、まだまだだね骸。ちっとも僕のことわかってないじゃないか。」
雲雀くんの指が長くて綺麗な手が、チョコレートのかかっていないドーナツをひょいとつまみ上げて、ドーナツは雲雀くんの可愛らしい口の中へと運ばれていきました。雲雀くんが口をもごもご動かしてドーナツを食べる姿は、僕を叩きのめす時の表情からは想像がつかないほど愛くるしく、雲雀くんを僕だけのものにしたいと思いたした。しばらくすると、雲雀くんは食べかけのドーナツを箱に戻して、それからチョコレートのかかったドーナツを取り出しました。
「恋人なんだから、ちゃんと僕の好みを勉強しなよ。」
雲雀くんが手に持っていたドーナツを僕の口に押しつけるので僕がそのドーナツを受け取ると、雲雀くんは応接室から出て行きました。あんなに普段可愛らしくない雲雀くんが突然僕のことを恋人として認めているような発言をするから僕はますます雲雀くんが好きで好きでたまりません。付き合ってても良いことがないことくらい重々承知してるのにも関わらず雲雀くんにぞっこんです。
そして僕は、この矛盾する雲雀くんへの恋が甘酸っぱいような気がして大好きなのです。
僕は君のとりこ
11/1/14
*for 2010mkhbさま