骸雲 | ナノ

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- 本当の名前 -


君が、骸が、もう二度と起き上がって僕に触れることがないなんてわかってるよ。若いのにかわいそうだね、なんて言うやつが憎い。そんなこと、そんな哀れみ、いらない。
若いからとか、元気だからとか、そんなの本当は本当は関係ないんだ。ひとつも。いつさよならするか分からないから、大切にしないといけないんだ。僕は心の底から大切にできた、とは言えないから悔やんでる。
でも、分かってたら大切にしたなんてそれは嘘だ。まだ幼い、たった15の僕にはよく分からない。









「恭弥くん」

「なに」

「僕は君が好きです」

「知ってる」

「君も僕が好きです」

「…知ってる」

「耳、貸してください」

「わっ、くすぐったいよ……なにそれ?」

「僕の本当の名前です」

「っ、っ…?」

「くふ、日本人には発音しにくい音なので恭弥くんは発音できないと思いますよ?」

「むかつく名前…」


骸はさらさらとポケットから取り出したきれいな紙に、きれいな字で自分の本当の名前を書いた。イタリア語と日本語の読み仮名を書いて、そしてそれを僕の手に握らせて、その上から僕の手を包み込んだ。


「世界で僕の本当の名前を知ってるのは君だけです」


そう言って、僕のファーストキスを奪った骸の顔は今でも憶えている。恥ずかしくてくすぐったくて、何回も"ばか"と叫んだ。






もしかしたら、骸は自分が死ぬことをこの時にはすでに分かっていたんじゃないのかな、なんて思う。
そんなつまらない思い出がたまらなく懐かしくてたまらなく大切に思えて、泣きそうになった。


「ねぇ、ディーノ」

「なんだ?」

「…お父さんって呼んでも良い?」

「俺はずっとお前のこと、本当の息子みたいに思ってたぜ」


堪えきれなくなって、押さえきれなくなって、僕はディーノの腕の中で泣いた。親の愛情を知らないまま、骸の大きな愛情を知ってしまった僕に、ディーノは親の愛情を教えてくれた。
死のうなんて思ってた自分がばかみたいに思えた。骸の分まで生きずに死ぬなんて、ばかみたい。だから僕は少しずつ、生きることを頑張ることにした。






もし、魂とか霊とか、そういうスピリチュアルなものが存在するのなら、骸に僕のことを忘れないでって、僕は骸の分も頑張って生きるって、知ってほしい。
ずっと僕のこと見ててほしい。君のところに僕が行く日が来るまで。















10/1/10
10/9/27
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