骸雲 | ナノ

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- クローン -


「骸、もう眠くなっちゃったよ。」


ソファーに座っていた雲雀はそう言って、右隣に座る骸の膝の上に雪崩れ込むように倒れてきた。俯くと、雲雀のふわふわした黒髪が骸の目に入る。骸は左手で雲雀の肩を抱き右手で黒髪を撫でると、雲雀は大きな欠伸を一つしてから眠ってしまった。
窓から部屋に夕日が射し込んでいる。だいぶ日が暮れていたので、夕日はオレンジなのか紫なのかよく分からない色をしていた。このゆったりとした時間に溺れて消えてなくなってしまえばどんなに幸せだろうか。
やがて夕日は細くなりながら闇に溶けてしまった。雲雀に触れていた手からは温もりが消えていた。骸はいつも通り、雲雀の肩を抱いていた左手を雲雀の首筋に当てる。やはり今日も雲雀のしなやかな首筋からは脈が消えていた。


「……………。」

「骸様……。」


つま先から頭のてっぺんまで白で統一された恰好をして眼鏡をかけた少年が、ソファーの後ろから骸に声をかけた。


「やはり今回もダメでしたよ。」

「…………。」

「ごめんなさい千種、でもあともう少しでうまくいくような気がするんです。」

「大丈夫です、心配しないで骸様。さあ後は片付けておくので少しお休みになって下さい。」

「……ありがとう千種。」


千種と呼ばれる少年は部屋から出て行く骸の背中を見送った後、ソファーの上で硬く冷たくなった雲雀を抱えて同じくその部屋を後にした。部屋の外は長くて白い廊下が永遠に続いている。千種はその廊下を雲雀を抱えたままひたすら歩き続けた。途中で廊下は色々な方向に行けるように別れていたが、千種は真っ直ぐ歩き続けた。
しばらく行くと、大きくて白い頑丈そうな扉に突き当たった。千種は雲雀を抱えながらも、余裕のある方の手で扉を押した。扉は何の音もたてずに開き、ぽっかりとした暗闇が出現した。千種はさらにその中を真っ直ぐ進み、雲雀を床に降ろした。


「今度は頼むよ、雲雀恭弥。」


冷たくなった雲雀に喋りかける千種。しかし、喋りかけた相手はその雲雀一人だけではない。部屋の中は開いたままの扉から入る光によって薄明るく照らされ、部屋に横たわる何体もの雲雀の亡骸を映し出していた。千種はその一体一体全てに喋りかけていたのだ。これまでに自分がこの部屋に運んできた全ての雲雀の亡骸に向かって、喋りかけていたのだ。
千種は扉を閉めて、また長く続く廊下を歩き始めた。部屋の中はいつまでも静かなままだった。













10/10/25改
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