骸雲 | ナノ

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- 痛み -


骸が家にやって来たときに、なにも出すおやつが無かったから代わりにりんごを剥いてあげた。
別にお料理が特別得意だなんてこともないんだけども。

するするする、順調にりんごの皮が長くなる。剥き終わると、今度は食べやすい大きさに切ることにした。
しゃき、しゃき、ことん。まな板の上で、僕の手のひらの上で、りんごがどんどん変身してゆく。
うさぎさんりんごとかにしたら、骸、絶対にうわあーかわいいです!ってにこにこしそうだな。そんな骸の顔が見たいな。って思ったけど、さっき皮を剥いてしまったのでそれは出来ない。




「りんごっ、りんご、真っ赤なりんご。でも中身はぜんぜん赤じゃないー」

「なんですかその歌?」


作詞作曲は雲雀恭弥です、なんて言ってみたら思いのほか骸にウケた。くふ、変な恭弥くん!って笑ってた。
骸に変に思われたけど、うさぎさんりんご作らなくても骸のにこにこした顔が見れてよかったと思う。
それから続けてりんごを切っていると、リビングにいた骸がキッチンにやってきて、僕を後ろから抱きしめた。そうっと、包むように。


「わ、何すんの!」

「後ろ姿がかわいかったからつい…」

「ばかな骸」

「恭弥くんしか見てないですからね……あ、恭弥くん指ケガしてます!」

「あ、ほんとだ」


僕の左手の人差し指の先に小さな切傷。こんなにも小さな傷を見つける骸って、本当に僕のことをよく見てるんだなあって少し感心した。


「ちゅってして治してあげます」

「あほ」










世間の人たちからすれば、ばかみたいなことかもしれないけれど、僕はこういう何気なくてほんわかした時間がとってもだいすき。あったかくて優しい気持ちになるのがだいすき。



冬の寒い寒い日に、心まで冷えびえしちゃうくらいの日に、僕は風邪の予防のために家に帰って手をアルコール消毒しました。あの日の傷が、ちくりと痛みました。
それはそれは、幸せで僕の心をあったかくしてくれる痛みでした。




痛み















09/12/27
10/3/1
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