骸雲 | ナノ

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※骸雲で百合












「今日からこのクラスの数学を担当する、ディーノと申しま…うあああ!」


少しざわついていた教室が一気に静まりかえった。教卓の横にはどうやらつまずいて転んだらしい、金髪の青年が服に付いた埃をパンパンと払っていた。
青年…ディーノは今年教師になったばかりの新米教師で、まだ先生と呼ぶには幼く、どちらかと言えばお兄さんと呼んだ方が相応しい感じの印象だ。そのせいなのか、はたまたこの学校が女子校で生徒が異性に飢えてるからなのかは分からないが、授業が終わった途端、クラスメートたちはディーノについてなにやら話始めた。

僕は全くあんな男に興味はない。なぜなら自分は男勝りで少々ほかの女の子たちと違っているからだ。だけど理由はそれだけではない。
ちら、と教室の隅に目をやると六道も僕と同じように自分の席に座ったままだった。どうやらディーノに興味は無いらしい。僕はほっとした。そう、六道が同性…つまり女と分かっていながら密かに好意を寄せている。だからこそ僕はそんな六道を見て、なんだかディーノに勝ったような気がして嬉しかった。が、そんな気分は一瞬にして脆く崩れ去った。
六道は唐突には立ち上がり、早足でクラスメートの群へと直進。普段物静かな六道のいきなりの行動に僕を含むクラス全員の視線が一斉に六道に注がれた。


「六道さんどうしたの…?」


クラスメートの一人が声をかける。


「私…私……ディーノ先生に恋しちゃったみたいなんです!」


バラエティー番組でよくある、頭上から突然たらいが落ちてきて頭に直撃、というワンシーンを想像していただきたい。僕も六道の発言を聞いた瞬間、その番組のように見えないたらいが頭を直撃した。そんな気分だった。
クラスメートは普段物静かな六道のその発言に興味津々で、話は次第に女子の好きそうな“恋バナ”とやらに移り変わったようだ。僕はその輪の中に入れないのに関してはなんとも思わないが、その輪の中に六道がいて、その六道はあの気にくわないムカつくディーノとかいう野郎に夢中だということに精神的なダメージを受けた。
そしてディーノは、いつしか僕の中で“お兄さん”から“ムカつく野郎”に変わっていた。





「六道、一緒に帰ろう?」


僕より背が少し高い、六道の丸みを帯びた肩に抱きつく。六道の首筋からはとても良い香りがして、僕はくらっときた。


「ちょっとやめてくださいよ!今日はディーノ先生に宿題教えてもらうんで、雲雀は先に帰っててください。」

「え………」

「うわあっ!」


僕が六道を引っ張るようにして抱きついていた腕の力を急に抜いたせいで、六道は前のめりになって転びかけた。スカートがふわっとめくれて六道のかわいらしい下着が見えたことは嬉しかったけれども、それ以上に六道の口から“ディーノ”という単語がでてきたことのショックの方が大きくて、僕はしばらく固まってしまった。


「あのー…大丈夫ですか?」

「………って…」

「え?」

「ディーノディーノって、あんなヤツのどこがいいのさ!!」

「雲雀……?」

「うるさい!そんなにディーノが良いなら勝手にすればいい!僕はもう帰る!」


とうとう六道に対して大声を張り上げてしまった。明らかに悪いのは僕なので、自分の言ってることが滅茶苦茶なのは頭では分かっていたが、もう我慢できなかった。
六道はきょとんと僕を見つめる。そんな六道はいつも以上にとびきりかわいくて、こんな六道があのディーノに見られてしまうと思うと悔しくて悔しくて僕の目からは大粒の涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。それは次第に数を増し、いつしか粒ではなく一本の筋となって僕の頬に涙の跡を作った。


「仕方ないですね…、」


さっきくらっときた良い香りがまた僕を包み込んだ。そして全身が暖かい。不思議に思って顔を上げると、目の前に六道がいた。唇と唇が重なりそうなくらい近い所に六道がいた。どうやら僕は六道に抱きしめられているらしい。


「う、うわっ…六道……!」

「今日は、雲雀と一緒に帰ることにします。」

「え……」


六道の言ってることがいまいち理解できなくて今度は僕がきょとんとしていると、背中に回されていた六道の手のひらがいきなり僕の頬を掴んだ。そのまま僕は引き寄せられ、六道は僕の額に自分の額をコツンとぶつけた。


「一緒に帰りますよ!」


大きな声でそう叫んだ六道の顔は、今の僕と同じくらい真っ赤になっていた。僕は、もしかしたらディーノに勝てるのかもしれない。



Possibility



















10/7/4
*for じゅんさま
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