骸雲 | ナノ

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- 70g、240kcal -


「恭弥、これ本当に良いのか?」

「良いって言ってるでしょ、食べなよ。」


ケーキを食べ続ければ太ることは免れないわけであって、僕は草壁とディーノにそれを食べさせる。週に3回、月水金。月曜日が草壁、水曜日がディーノ、金曜日が僕。二人とも僕がなぜそんなにケーキにこだわるのか聞いてくるけど僕は何も言わない。僕だけの秘密。




「いらっしゃいませ。おや、雲雀くんじゃないですか」

「こ、こんにちは…」


彼はここのケーキ屋でアルバイトをしている僕より2つ年上の高校生。少し前、下校中に店の前を掃除する彼に一目ぼれして以来、僕は彼がアルバイトをしている月水金はケーキ屋に欠かさず通っている。女性客の多い中、決まってショートケーキを1つだけ買いに来る中学生の男子なんて僕以外にいるわけがなくて、彼はすぐに僕を覚えてくれた。


「ねぇ、君いつも来てますよね。ケーキ好きなんですか?」


いえ、僕はケーキになんてこれっぽっちも興味なんてありません。あなたが好きなんです。

…なんてことが心の中で浮かんで消えた。しかし僕はただ首を縦に振るしか出来なくて、彼はくすり、と笑った。


「僕も大好きです」


一瞬、告白されたのかと戸惑ったが、彼が最後にケーキと付け足したので夢から覚めた。
それからも、僕が店へ足を運ぶ度に彼と会話を交わすようになり、少し仲良くなれた気がする。それと同時に、僕はなんだかトクベツな存在になった気もした。




「…委員長聞いてます?」

「んー…」


今まで、学校のことと修行に明け暮れて没頭していたはずなのに、僕の頭は彼のことばかり考えてしまうようになった。次会ったら何を話そうか、制服じゃなくてたまには私服で訪ねてみようか、それとも今度一緒にどこか行きませんかと誘ってみようか…。
月曜と水曜と金曜の放課後が楽しみで楽しみで、僕はこんなにも充実していて幸せな毎日がこの世の中にあるなんて知らなかった。


いつものように店へ入ると人だかりが出来ており、近づいてみると女性の群れの真ん中に彼がいた。彼と同じ学校の女子生徒、若い女性、すこし年上の女性まで、みんなが彼を取り巻いている。
黄色い声の渦の中でにこにこしている彼は、やっぱりその辺にいるただの男どもとは別格で、そんな彼が街で噂にならないわけなんてなくて、僕以外にも彼目当てで店にくる人間があまりにも多いことに僕は愕然とした。僕はその場に立ち尽くした。
しばらくすると彼は僕に気づいて、わざわざショートケーキを持ってきてくれた。


「はい、これ。すみません今日はなんだか混んでて…」

「いえ……」


僕が彼に何か話しかけようとした時、彼を取り囲んでいた女性陣が六道くーん、と僕のあまり好ましくないわざと甘えた声でさけんだので、彼は僕に一言挨拶をしてからすぐにあの輪の中へと戻っていった。
僕はやっぱり男なんだ、と痛感したし、心のどこかでもしかしたら僕にもチャンスがあるのではないかと思っていたが、その希望も薄れていくような感じがした。


一人で情けなくうなだれながら家に帰り、ショートケーキを口に運ぶ。ショートケーキは今まで僕が抱いていた幸せを象徴したような甘さなのに、僕の心は苦みを感じている。甘くて苦くて苦しかった。どうやら、恋も嫉妬もはじめてで、僕は動揺してるみたいだ。

ふん、あの忌々しい取り巻きになんて負けるもんか!




70g、240kcalの甘い甘いショートケーキに潜む罠にはまってしまった僕。














10/3/4
*For 椎名みそさま
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