骸雲 | ナノ

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- Blood, Sex And Booze -


最初は甘い言葉を巧みに使って、僕を誘惑し、優しく僕に近づいてきた。彼は外見も中身も僕を惹きつけるものを持っていた。僕が彼に溺れるなんてあっという間だった。




「分かったのなら返事をしなさい。」


冷ややかな言葉と共に、僕に鞭が振り下ろされた。鞭が空中を裂くしなやかな音の直後、鞭は僕の体に当たりぱちんと音をたてた。そして僕の口からは呻くようなかすれた声がこぼれた。体に一本の筋が入った。その体のあちこちには、殴られ、蹴られ、叩かれ、そして今のように鞭で打たれた痕が無数にある。
僕はヒリヒリとした痛みを感じながら返事をした。骸は満足そうに微笑み「それで良いのですよ。」と僕に言って、それから頬にキスをした。さっき鞭で打たれたところよりも、キスされた頬の暖かさの方が何倍もはっきりした感覚として僕の脳は感じ取った。霞んだ視界から骸が消える。骸はどうやら僕を置いてどこかへ行ったらしい。



ある日突然、骸の家で僕は骸に思いっきり殴られて意識を失った。気がつくと簡素なベッドに横たわっており、腕と足と首を鎖でベッドのパイプに繋がれていた。ベッドは固定されていて、僕はどう足掻いても部屋から出ることが出来ず、自分をこんな風にしたのが骸だと分かっているため悲しくて涙がこぼれた。
それからかれこれ二年、僕は骸に監禁されている。監禁と言っても、ここ半年くらいは骸の好みの服と靴を着せられ骸と一緒に街へ出かけたりもする。それは僕が一年と半年で骸に痛めつけられることに幸せを見出したからである。たとえ今、骸がこの鎖を解いても僕はここから逃げはしない。骸もそれを分かっている。しかし鎖という目に見える形での支配は今も続いたまま。

骸に腹を蹴られれば、僕から血が流れ出た。骸が僕にセックスを強要すれば、僕から精が流れ出た。骸に愛を囁かれれば、僕から骸を想う言葉が流れ出た。骸は僕をまるで人形のように扱う。時には乱暴に、時には優しく。痛めつけられても、酒を飲まされておかしくされても、血まみれにされても、僕は骸のことが好きで好きで仕方がない。骸の暴力もセックスも好きで好きで仕方がない。そこに愛があると僕は信じているからだ。



「恭弥くん、今日はいっぱいお酒買ってきましたよ。」


どうやら買い出しに行っていたらしい。骸は近所にあるスーパーの袋を横たわる僕の足下に置いた。中からは缶に入ったアルコールを含む飲み物が大量に転がりでた。その一つを手に取り、プルタブを引いて封を開ける骸。転がしたためか、はたまた骸が乱暴に持ち帰ったのか、プシュッという音と共に飲み口から泡が噴き出た。


「いっぱい飲んでください。」


両目で色の異なる目が僕の濁った目を見つめ、僕の顔は恥ずかしさで赤くなる。そして骸に教えられた通りに口を開けた。骸は僕のだらしなく開いた口に缶をくっつけてアルコールを流し込む。ぶっ続けで流し込まれたら全部飲み込めるはずもなく、口の端からぼたぼたとアルコールはこぼれた。ベッドのシーツが水分を含んで灰色になり、その部分が僕の座っている辺りからじわじわと浸食して広がっていった。
何本もの缶のアルコールが僕の口に注ぎ込まれ、骸もまた自らの口にアルコールを大量に流し込んでいた。時には、骸の口に一度含まれたものが口移しで僕に流し込まれたりもした。次第に目に映るものが二重に見え、頭痛と吐き気が酷くなった。
骸はそんな僕の唇を貪るように吸い付き、僕の口の中に舌を入れたり僕の舌と絡め合わせたりして、僕をそのまま押し倒した。安物のベッドは二人分の体重でギシギシと嫌な音をたてる。ベッドの上に適当に置いていたいくつもの飲みかけの缶が、骸が僕を押し倒した振動で倒れ中身のアルコールが流れ出たのと、さっき僕の口からこぼれたアルコールとで、僕らの体も顔も髪も何もかもがアルコールまみれになった。骸の匂いなのか、自分の匂いなのか分からない匂いと、アルコールの匂いが混ざって僕の鼻をついた。
骸に着せられていたボロボロの衣服が骸によって脱がされ、僕は裸になる。色白で筋肉も脂肪もない痩せた僕の体は、少し赤く色付きアルコールで濡れており、とても不気味だった。骸はそんな僕の裸体を撫で回し、あちこちにキスをした。骨の上にも、自らが付けた傷の上にも、僕の大事な部分にも。そして僕は今日もこのまま全身を骸で満たされる。

すでに堕落した僕はこんな毎日がずっと続けば良いと思った。僕はこの生活がこの上なく幸せだと思った。



Blood, Sex And Booze
















10/6/7
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