- That's all lies -
いつからここにこうしているんだっけ?
僕と骸は長いこと長いこと、時代遅れのブラウン管のテレビの画面に二人してへばりついてる。テレビの正面からは、赤と白と黄色のコードがだらしなく、足元に転がってあるゲーム機に繋がれていた。
画面の中では、僕らが操るバーチャル世界の住人が得体の知れない生物と戦っている。おびただしいほどの血しぶきが何度もあがり、画面に血がこびりつくんじゃないか、と僕は余計な心配をした。
何日も何日も飲まず食わずの睡眠無しで、ずっと画面にへばりついていたら、画面がぷつん、ゲームがしゅん。おまけに、電子レンジと電話がおかしな電子音を鳴り響かせ、今まで耳にしていたゲームの音と違う音が、脳髄を刺激する。気分が悪い。やがてそれは鳴りやんだ。
「なにこれ」
「あー……、電気止まりましたね」
骸は玄関に散らかった、ドアの郵便物受けから入りこんだ手紙や新聞(当然今は止められてる)をかきわけ、光熱費の未納を知らせる紙切れを探しだした。
むしゃくしゃしていた骸は、そのまま紙切れを破り捨てて下駄箱を蹴った。うすっぺらな下駄箱の側面を覆う木材が、当たり前に陥没した。木屑が散って、更に玄関が散らかった。
家主に僕たちが追い出さないのは、骸の気性が荒く、僕たちが世の人間が関わりを持ちたくない部類の人間だからなのかもしれない。家主は一度も家賃を請求しにこない。
「これからどうしましょう」
「んむっ、聞きたいのはこっちだよ…」
大変な状況にもかかわらず、骸は笑顔で僕にキスをした。冷蔵庫に入ってたはずのゼリーが冷えている今のうちに食べようとキッチンへ向かい、もしやと思って蛇口とガス栓を捻ると、案の定どちらからも望みのものは出てこなかった。
ボロアパートには何の用もなくなってしまった。ただ僕らの愛がつまっているだけ。数少ない家具は、骸のやつあたりで傷だらけ。
「出かけますか…」
「うん」
二度と戻ることのないアパートの階段を降り、駐車場に向かう。疲れた顔をした男二人が、首元のくたびれたTシャツを痩せた体に身にまとった姿が滑稽だな、なんて頭の隅で浮かんで消えた。
お金は無いのに、車にだけはこだわりを持っている。僕らの所有するそこそこ値段のする四駆は、僕たちの見た目からじゃ想像がつかないくらいぴかぴかにワックスがかけられていた。キーを差し込んで回すと、ドルルルル…とディーゼルエンジン特有の音が心臓にまで響く。
「何が真実で何が嘘なんでしょうね」
「僕たちが愛し合うことが真実で、僕たちの存在が真っ赤な嘘なんだよ」
「意味不明です」
舌を合わせて、下品に涎を垂らしながら汚いキスを交わした。それから車を走らせて、高速道路に。もちろん、ETCなんて買うお金は無いからゲートを強行突破。そんなこと、もう、どうでも良いんだ。
「僕たちが生きていた、ということは全部嘘にしていいんですか?」
「そう、全ての嘘は僕たちが生きていたことなんだ」
「…やっぱり君の言うことの意味がわかりません」
「意味なんてどうでもいい。とにかく嘘なんだよ、嘘。僕たちなんてこの世に存在しなかったんだ。愛してるよ、骸」
「……愛してますよ」
カーブにさしかかっているのにも関わらず、骸のアクセルを踏む足の力は弱くなるどころか強くなった。エンジンがものすごい音をあげている。僕たちを乗せたぴかぴかの四駆は、ガードレールを突き破って海に沈んだ。
当然、そんな衝撃に僕たちの体が耐えられることなんてなかった。
That's all lies
10/1/10
10/3/1
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