骸雲 | ナノ

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- おいしくてしかたがないんだ -


「僕とキスをしてはいけないよ」


彼は困った顔でそう言った。僕には意味が分からなかった。僕がキスをしようと迫っても彼は頑なにそれを拒み続けた。その他は全部済ませたのにキスだけは一度もなかった。
たしかに彼が僕を少し嫌っているのは知っている。そしてそれが本心ではないことも知っている。照れ隠しだ。じゃあなぜ。


「なぜ、キスをしてはいけないんですか?」


すると彼は悲しそうに俯いて一言ぽつりと、別れよう、と口にした。僕は彼のことを心から愛していたし、彼以上の人間には今後出会うこともないと思い、嫌です、とすかさず反論した。すると彼も、僕もずっと君といたい。結婚してほしい、と悲しそうでどこか不機嫌そうな顔の頬を赤らめて僕に告げた。じゃあなぜキスができないというのか。
僕は少し戸惑う彼を引き寄せて唇を重ねた。舌を絡ませ、くちゅくちゅと音をたてる。なんだ、キスできるんじゃないか。


「痛い」


彼が僕の唇を噛み、血が唇の上ににじみ出た。彼はそれをきれいに舐めとり、その最中に僕の服を器用に脱がせて、僕は上半身が裸となった。


「するんですか……!」


てっきり誘っているのかと思い、彼の背中に腕をまわそうとしたら肩に激痛が走る。痛みのする箇所に目をやると血にまみれており、自らの目を疑った。彼が僕の肩の肉を噛みちぎっている。彼の頬は以前よりも赤みを増し、恍惚とした表情で僕の赤い、おそらく筋肉と思われる部分を手で剥ぎ取り、口へと運んでいた。
僕は反射的に彼を突き飛ばした。彼ははっと我に帰ったような顔をして、ごめんね、とまた悲しそうな顔をして部屋から出て行った。







あの日からもう50年も経つが、彼の消息はわからないままである。あの日以来一度も彼の顔を見ていない。もしかしたらもうこの世に存在していないのかもしれない。

彼が出て行った後、彼の部屋にある鍵のかかった引き出しを破壊し、中身を見てみると小さな封筒がいくつも入っていた。開封すると、彼が様々な女性や男性と親しそうに二人で写っている写真が入っていた。感じからすると、昔の恋人といったところだ。膨大な数の封筒があるということは、彼にたくさんの恋人が過去にいたことがわかる。意外だった。
封筒を片づけようと持ち上げたとき、中から細長い棒状の何かが机の上に転がり落ちた。拾い上げてよくよくみてみると、指の骨だった。まさかと思い、封筒全てをひっくり返すと封筒の数だけ指の骨が机の上にカラカラと転がりでた。
写真の恋人は彼の胃液によって溶かされ、彼の養分となったらしい。彼は狂っていた。



おいしくてしかたがないんだ




















10/4/17
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