骸雲 | ナノ

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- せめて最後にもう一度 -


「僕たち、結婚することになりました」

骸は隣にいる彼女の肩を強く抱いて、僕に幸せそうな笑顔でそう言った。




せめて最後にもう一度






骸とは高校の時からの友だちで、僕たちはいつでもどこでもずっと一緒で、僕はそんな毎日がとてつもなく幸せだった。いつまでもこの幸せが続くと思っていたし、途切れてしまうなんて考えたこともなかった。
僕はいつしか骸に恋をしていたけれど、一度もその想いを骸に伝えたことはない。おそらく骸なら、返事はイエスでなくともずっと友だちでいてくれるだろうとは思っていたが、僕は伝えなかった。伝えなくとも、僕たちはいつも一緒で僕の一番は骸で骸の一番は僕だったのだから。曖昧ではあるけれど、ずっとこのままでいられたら良いなあと僕は考えていた。
そのままぐずぐずと僕たちは同じ大学に進み、就職先は別であったが大学生の頃から一緒に住んでいたので、やはりまだ僕たちは一緒にいた。いつか、いつか骸が僕に好きだと言ってくれるんじゃないだろうか、あるいは死ぬまでこのまま二人で幸せに生きていけるんじゃないのだろうか、と僕は毎晩隣で眠る骸の寝顔をこっそり覗きながら幸せな妄想をして眠りについていた。


けれど、そんなに世の中うまくできてるわけなんてなくて、ある日骸は家に小柄でかわいらしい女性を連れてきた。

「こちらが僕の彼女です」

挨拶をしてにこにこと僕を見つめる彼女は本当にかわいくて天使のようで、僕は彼女を気に入った。と同時に僕は骸とは結ばないんだなあと実感して胸がきゅうっと狭くなったような気がした。でも僕は骸に幸せになってほしい気持ちの方が強いからぐっと我慢した。
彼女は何度かうちに遊びに来ており、すごく親切で明るく優しくて、何より骸を愛している気持ちが大きくて僕も彼女がだいすきになった。そんなとき、二人は結婚することを僕に告げた。僕はだいすきな彼女になら骸を任すことができる、なんて僕は骸の両親でも恋人でもないのに勝手にそう思い、心の底からおめでとうを言った。




でも本当は悲しくて、もう骸と一緒に暮らすことができないと思うと涙が止まらなかった。僕はズルくて卑怯な人間だから、眠っている骸に何度も何度もキスをしたことがある。骸の唇は柔らかくてとっても優しくて、幸せの味がするキスだった。
もっと早く、僕が骸に想いを伝えていれば。骸が僕のキスに気づいていれば。何かが変わっていたのかもしれない。だけど僕は想いを伝えなくて良かったと思っているし、骸に気づかれなくて良かったと思う。後悔はしていない。僕のだいすきな二人が幸せになるのに、後悔やためらいはなにもない。
ただ………、ただ、骸が遠くに行ってしまうような気がして、僕は少しさみしい気持ちになるだけ。
















明日骸はこの部屋を出て行く。新しい家で彼女との新しい生活が骸を待っている。ぼくは自分にこれで最後にしようと言い聞かせて、眠っている骸の唇に自分の唇を重ねてそっとキスをした。



せめて最後にもう一度
















10/3/13
*for 2010mkhbさま
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