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- 好きだよ -

※閲覧は自己責任でお願いします。小説一覧ページでの警告マークの意味通り、苦手な方は絶対に読まないでください。
(大学生まこはる)






ピンポーン…

真琴は読んでいた本にしおりを挟みたかったが、生憎手の届く範囲にしおりの代わりとなる物がなかったので、本を開いて裏返しにテーブルの上に置いて、それから玄関へと向かった。

「はい。」
「こんにちは、私このマンションの管理人なんですけどねぇ、その、近隣の方々から最近この辺りで異臭がするとご連絡をいただいたものでね、その…橘さん何か心当たりありますか?」

要するに、この管理人は真琴を疑っているようだった。

「あ…すみません、実は忙しくてこないだのゴミの回収の日にゴミ出すの忘れてて……それかもしれません。」

真琴は誰からも愛されるような柔らかい笑い方をした。管理人は人柄の良さそうな真琴に安心したのか、次から気をつけるよう軽く注意を促すだけで帰って行った。真琴はそんな管理人の後ろ姿を笑顔で見送った後、ドアを閉めて鍵をかけて、それからまたテーブルに置いた本を手にとって読書を再開した。






「橘くん…ですよね?」

真琴が席を立とうとした時に、面識のない女子に呼び止められた。真琴はそうだよ、といつも通りのふわっとした表情で答えた。

「いきなりごめんなさい、私七瀬くんと同じ学部の友達なんですけど、最近七瀬くん全然来てなくてみんな心配してて……。七瀬くんの親友の橘くんなら知ってるんじゃないかって思ったんですけど…何か知ってますか?」

「それが…俺もはるから何も聞いてないんだ。はるの家にも行ったけどいなかったよ。」

真琴は少し悲しそうに眉を下げた。

「そうですか…。」

「まあ、たぶん…はるのことだから、どこかにふらっと一人旅にでも行ってるだけだと思うんだけど…。だから心配しなくてもすぐ帰ってくるよ。」

優しい笑顔でそう言う真琴の言葉を聞くだけで、女子生徒はきっと遙はすぐに帰ってくるだろうと確信した。そして真琴に礼を言った後、女子生徒は去って行った。

真琴はその日の帰りに、慣れない料理をするために買った料理本に書いてあったグリーンカレーのレシピをメモした用紙を片手に、必要な食材を揃えた。そして忘れずに鯖も購入した。しかし真琴は遙のように鯖をさばくことが出来ないので、生の鯖の代わりに切り身を選んだ。

帰宅後、食材を冷蔵庫にしまい、真琴は風呂場へと向かった。

「ただいま。」

水の張られた浴槽には、真夏の気温のせいで腐敗がかなり進んだ死体が脚を折りたたんで沈んでいた。異臭が鼻を突く。もうほとんど原型をとどめておらず、死体が誰のものなのかは見た目だけでは判断不可能だろう。

「ごめんね、はる…。せっかく水の中に入れてあげてたんだけど、色々と不都合なことが起きちゃって。だから早く俺と一つになろうね。」

真琴が浴槽の水を手でかき混ぜる度に、遙の身体の表面がぼろぼろと剥がれ落ちて、一層異臭を強くさせた。真琴はその匂いを不快だとは思わず、寧ろ遙の匂いだと思うことでその匂いに興奮していた。
遙を浴槽から引き上げようとすると、腐敗が進んでいるため、案の定骨から肉がずるずると剥がれて思うように引き上げられなかった。それでも真琴は遙を抱き上げるようにしてなんとか浴槽から引き上げ、浴室の床に置いた。

「ちょっと痛いけど我慢してね。」

真琴は風呂場の外に用意していたノコギリで遙を分割していった。肉は簡単に切れるのだが、骨は思っていたよりも硬く、真琴は「大丈夫だよ」と何度も呟きながら手に力を込めた。ようやく遙が小さく分割された後、真琴はもはやどこが耳でどこが鼻なのかも判断しかねない遙の頭部を抱き上げて、遙の唇を丁寧に探し出し、ようやく唇と思しき部分を見つけ、そこへ自分の唇を口付けた。

「好きだよ、はる。でもね、これじゃ一つになるには大きすぎるんだ。だからまた少しだけ我慢してね。」

今度はトンカチを取り出し、真琴は遙の頭部をトンカチで何度も何度も殴りつけた。頭蓋骨は割れ、ぐしゅぐしゅと気味の悪い音を上げながら液体がどろどろと流れ出た。
真琴は手際よく、個々に分割された遙の身体とペースト状になっている遙の頭部を、大きなゴミ袋へと流し込んで一旦風呂場の外に出し、それから汚れた服を脱いで別のゴミ袋へ入れて、シャワーを浴びた。

「もうちょっとだよ、はる。俺たちはずっと一緒になるんだ…。」

遙を解体したせいで興奮した真琴は身体についた血と遙の一部を手で掬い、それを使って自慰をし、シャワーで全てを洗い流して綺麗な服に着替えた。



「はるなら俺より随分上手に切れるんだろうな。」

大きさに均一性のない野菜とカレーのルー、そして鯖の切り身を真琴は異臭のする大きな鍋に放り込んで、火を強くした。

「よかったね、はる。大好きな水と鯖と一緒に煮詰められて。」

真琴は恍惚とした表情で火にかけられた鍋に話しかけていた。鍋の中から真琴への返事が返ってくることはなかった。


出来上がったグリーンカレーを皿につぎ、ご飯と一緒ではなくそのカレーのルーだけを真琴はスプーンで掬って口へと運んだ。

「はる…やっと俺たち一つになれたんだね。これではるは俺の血や肉に変わって永遠に俺と一緒だよ……。」

真琴は泣いていた。恍惚とした表情のまま泣いていた。成人男性一人分を煮込んだカレーの量はかなりのもので、いちいち皿につぐのが面倒になった真琴は、鍋ごと自分の前に持ってきて続きを食べた。そして終始ぶつぶつとカレーに話しかけながら完食した。

「これからは、俺、毎朝水風呂に入ってあげるね。あと、鯖も毎日食べるよ。それから、プールにだってたくさん泳ぎに行くよ。はるの好きなこといっぱいしてあげる。ふふ、俺今すごく嬉しくてたまらないや。死ぬまで…いや、死んだって、俺とはるはずっとずっと一緒だよ。」

少し膨れた胃をさすりながらそう話す真琴の顔は幸福感と満足感に満ち溢れていた。しかし、真琴がいくら話しかけても、依然として胃の中から返事が返ってくることはなかった。









2013/12/3




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