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- イルカの妖精 -

俺はいつかいなくなる。そして俺のことを憶えてる人もいなくなる。


時々、はるはこんなことを言っていた。そりゃあ誰だって年をとれば死んでいなくなるし、いずれ自分のことを知っている人だって死んでいなくなる。だから俺はあまり深く考えずにはるの言葉を聞いていた。

はるは突然いなくなった。俺たちが大学二年のときだった。 はると連絡が取れなくなって、凛や渚や怜をはじめありとあらゆる人に尋ねてまわったが、誰も七瀬遙を知らなかった。
俺はもはやどうすることもできず、ただ途方に暮れることしかできなかった。世界中からはるが消えてしまったけれど、俺の中にははるがいた。俺だけがはるのことを今でも憶えている。はるのにおいまで鮮明に思い出せる。はると過ごした日々、はるの色んな表情、俺が抱いていたはるへの恋心も、はるから俺に向けられていた淡い恋に似た気持ちを感じていたことも、はるの全部を俺は思い出せる。でも七瀬遙がいたことを示すものは俺の記憶以外に何もない。



はるは水の中に帰ってしまったのだろうか。ああ、はる。俺をこんな気持ちにさせるなんてひどいよ。それなら俺もみんなのようにはるを知らないで生きていきたかったよ。それが出来ないなら、俺もはると一緒に消えてしまいたかったよ。

ねえ、はる。今どこにいるの、何をしてるの。はるも俺のことを憶えてくれてるといいなぁ。





2013/11/2


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