EGOISM?
「どうしたんです?次はあなたの番ですよ。」
そう言いながら、超能力者であるという少し怪しげな少年古泉一樹は俺に微笑みかけてきた。
「いちいち顔が近い。」
「これはすみません。」
顔が近いという俺の発言は、断じて古泉を変に意識しているゆえの発言とかそういうものではない。気色が悪いから言っているだけである。
「なあ、ハルヒや朝日奈さんは今日は来ないのか?それに長門までいねーし……」
オセロ盤に黒を置いて、それから古泉の白を五つ黒にひっくり返してふと顔を上げると、古泉はうまいこと俺の唇に古泉自身の唇を重ねた。
「なっ、何考えてんだお前…!」
ゴシゴシと俺は腕で口を拭うと、古泉は驚いたような顔をしていた。
「まだ気づいていないのですか?」
「何のことだ。」
「僕たちは今、涼宮さんの作り出した閉鎖空間にいるんですよ。」
「俺はそんなこと知らないぞ!そもそもなんで俺が閉鎖空間なんかに来なきゃ…」
また古泉の顔が俺に迫り、古泉は俺の腕を掴んで静かにうつむいた。そんな古泉の耳は真っ赤に染まっていた。
「涼宮さんの前ではなかなかこういうことはできないですし……閉鎖空間じゃないと………」
古泉の発言は珍しくはっきりしたものではなかった。
「…あの巨人みたいなやつを倒しに行かなくていいのか?」
「実は今回、僕に召集はかかってないんですよ。…こっそりあなたを連れてきちゃいました。」
アホかと言ってやりたい所だが、ここはめったに見ることのない古泉の真っ赤な顔に免じて許すとしよう。断じて古泉の顔に見とれたとかそういうんじゃないからな!
俺は古泉が俺に好意を寄せていることは知っている。なぜなら古泉は俺に告白をしてきたからだ。当然俺は男に興味なんてあるわけがない。だからきっぱりと断ろうとしたのだが、どういう風の吹き回しか、はたまた俺の気まぐれなのか、返事は保留ということにしている。
古泉と学校で顔を合わせるのは部活の時くらいなので、普段はハルヒたちがいるから古泉は何もしてこない。でも時々ハルヒたちが部室にいないとき、古泉は俺を抱きしめたりする。俺も俺で、それを甘んじて受け入れたりしている。なぜだろうか。俺にもわからん。
しかしなんとなく、古泉のそういう俺への好意をつなぎ止めておきたいという気持ちがある。
「ちょっとだけだからな…」
「わかってますよ。」
にこにこ笑いながら古泉は俺を後ろから抱きしめた。俺はこういう中途半端な気持ちが古泉を傷つけている気がして、後ろめたい気持ちになった。それでも古泉をそばに置きたいというこの気持ちは果たして古泉に対しての好意なのだろうか。
2011/5/25