New Deep - 1
何度かおじさんをお姫様抱っこしたことがある。おじさんが僕の腕の中にすっぽり収まる光景はどことなく滑稽で嫌いではない。僕の感情をかき乱すくせに、僕がお姫様抱っこをすると動揺するおじさん。
そんなおじさんに、一度だけお姫様抱っこされたことがある。
あの日は雨が降っていた。二人で飲みに行く約束をして待ち合わせ場所に行くと、おじさんは傘を持ってきていないようで、近くのデパートの入り口で雨宿りをしていた。
「遅くなってすみません。傘忘れたんですか?」
「ああ、まあな。すぐそこだから一緒に入れてくれよバニー。」
「まったくおじさんは……。」
そんなに大きくない傘の中で、肩と肩がぶつかる。その度にまた僕の感情は揺さぶられる。早く店に着いて傘から出たい気持ちと、もう少し長く傘の中に二人でいたい気持ちとが渦巻いていた。
今までこんな気持ちになったことが無い分、最初は戸惑ったし認めたくなかった。けれど僕は…………
「…こんなおじさんと相合い傘なんて嬉しくないよな。バニーが隣にいてほしいと思うような女性はいないのか?」
「………いませんよ。」
「つまんねぇヤツだなー!バニーくらいの色男ならそんな話が2つ3つあってもおかしくないと思うけど。」
僕の隣はおじさん。それが当たり前だと思っていた。仕事上おじさんが隣にいるのはほとんど毎日だ。でも本当におじさんの隣にいるべきは、おじさんの娘さんと奥さんだけだ。
それに、僕なんかがおじさんに好意を寄せているとおじさんが知ったら、それが周りにバレたら、コンビ解消になりかねない。それならこの気持ちを隠してずっとおじさんの隣にいる方がずっとマシだ。
だから僕はおじさんの前では強がる。そうでもしないと、おじさんに好きだと言ってしまいそうになるからだ。
「傘サンキューな。」
「いえ……。」
そうこうしているうちに、店に着いた。おじさんは僕の傘から出て行った。もちろん触れていた肩も離れてしまった。店内に入ろうとするおじさんの背中を見つめることしかできない僕。
雨は僕たちが帰る頃にはやんでいるだろう。残念だ。
2011/6/22