｢あいが見えん｣

｢…はい？｣

あいＩ藍あ、変換違い。愛ね、はいはい。いきなり変なこと言うからびっくりした。愛が見えないって…物理的なものじゃあないから見えないのが当たり前だと思うよ。そうしたらカクから違うんじゃって反論をくらった。


｢なんだかわしばっかり好きじゃて言ってる｣

｢ええなにそれ｣



確かにカクはわたしに異常なほど好き好き言ってくる、けどそれにちゃんと｢わたしもだよ｣って応えてるのにな。カクの好きにわたしの好きが埋もれてるだけなんじゃないかなって言ってみても、子どもみたいに口を尖らせて拗ねてるカクは｢わたしも、とかじゃなくてちゃんと言葉にして欲しいんじゃ｣なんて乙女思考。なにそれ普通それ女の子の台詞だよ。あれか、流行りの乙男ってやつか。ふむむ。



｢本当はわしのことたいして好きじゃないんじゃろうふーんだ｣

｢なんでそうなるかなあ！ええとねえ、別に嫌いとかじゃなくって…｣

｢じゃなくって？｣

｢言い過ぎて言葉の重みがなくなっちゃうんじゃないかなー、なんて｣

｢え、なっちゃうのかのう！｣

｢え、違うよ、そう思っただけで、｣



べつにカクへの想いは軽くなんてならないから、このまんまだよ。なんて訂正すると、それじゃあ口に出しても大丈夫じゃな！ってカクが嬉しそうに破顔する。あれ、もしかしてわたしに言わさせるための計算された罠？…カク、恐ろしい子！


｢さあ、言ってみい｣

｢あー、えっと、…いい天気だね｣

｢こら｣



話を逸らそう作戦は見事失敗に終わった。…ここはもう腹をくくって口にしてしまった方がいいのかな。改めてカクのまんまるな目を見据える。そりゃあ好きだよ、好きだけどさあ。
深呼吸をして、どきどきばくばく暴走する心臓を最小限までに押さえ込む。よし、





｢……すきだよ｣





絞り出したたった四文字はカクの耳に入る前に消えてしまいそうなくらい緊張で細くなってしまった。ほっぺたが、熱い。
うああだから嫌なんだってば！緊張しちゃうだなんて、照れちゃうだなんて、わたしのキャラじゃないんだよ！こうもっと、すきだよってにっこりえへへなんて余裕綽々で言えるようになれたらなあ。ほらそんなわたしにカクだってぽかんと阿呆面してる。ちょっと、不安になるから何とか言ってよ。



｢ねえ、カク？｣

｢あ、いやいやすまん｣



やっと意識がこっちに戻ってきたと思ったら、みるみるうちにカクのほっぺたが朱に染まりはじめた。えええなんで！だってカクならそんな反応なんてしないでむしろ余裕な笑みを浮かべながら、真っ赤じゃのうなんてからかってくると思っていたから、予想外の反応に唖然。



｢なにそれ｣

｢いやいやこうも正面から言われると、のう｣

｢わたしはいつも正面から言われてそんな気持ちなんだからね｣



思い知ったか。なんて言うけどカクの方もすごいと思う。好き、とか毎日のように言っているんだから。わたしなら無理だな。心臓ばくばくして死にそう。

カクはそんなわたしに人懐っこい笑みを浮かべると得意気に、


｢愛故じゃ！｣



これでおあいこ




◎すてきな麒麟企画、｢きりんさんと一緒｣さまに提出させていただきました！