CP9には感情はいらない、特に任務のときは。だけど私は感情をすてきることが出来なかった。逃げ惑う人、命乞いをする人、怒りを宿した瞳で見る人、大切な人を護ろうとする人

そんな人たちの身体に私の白い指先は吸い込まれるようにしてその人たちを貫いて自分の指先を赤く染める。その行為に自分で自分の2つの瞳を閉じようとする


いやだ、いやだ、見たくない。こんなの見たくない、こんなことしたくない



「―――、」


空気が揺れた気がした。目の前で倒れる男の最後の悲鳴なのかもしれない。…ううん、違う。カクが私を呼んだんだ、だけど感覚が麻痺してるみたいで夢の中にでもいるかのような覚束ない足取りで振り返ってカクを見ればカクも私と同じように指先を赤く汚していた


不意に横にあった割れた鏡を見れば鏡にはこの任務によって煤や埃で汚れた顔を涙で洗い流す自分の姿が映っていた


「任務、終わったね…」

「…そうじゃな、」


正式なCP9になれて日が浅いからこんなに辛いだけですぐになれる。だから、今は早く戻って熱いお風呂に入って柔らかいベッドに潜り込むんだ。だから、早く戻って、早く、早く…


だけど足は根っこでも生えたかのようにして動かない。だけど小さな風が吹けばそれこそ草木みたいに簡単に横に倒れそうになる


するとふわりとカクに抱きしめられる。私がこれから倒れることを予測したみたいに優しく優しく抱きしめる


「もういい、もういいわい…」


なんでカクは苦しそうに言うの?どうしてカクは泣きそうになっているの?ねぇ、どうして?どうしてなの?


吐き出したい質問は喉に引っ付いて音にならない


だけど、カクが自分の赤い指先で私の涙を掬いあげる度に、カクの赤い指先で私の頬を赤くする度に、カクの温かい指先に触れる度に、吐き出したい質問は代わりに嗚咽混じりの泣き声となるのだった



たいへんよくがんばりました


感情はまだ捨てなくていい、我慢しなくていい

代わりにわしの胸の中で吐き出してくれ



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