まいにち活用するバスにそのひとはいる。私は停留所を二つ押して乗車する彼を、いつも目で追ってしまう。だって、そのひと…そのひとは、友人のウソップに凄く似ているのだ!みればみるほど酷似していて、異様な親近感。しかし彼とウソップは赤の他人だし、なにより明らかな違いは、彼の方がウソップより美形なことだ。そんなことを言ってしまえばウソップに怒られるかもしれないけれど、小説を読む際に伏せらせた目には私も羨む長い睫毛、柔らかな微笑みからはマイナスイオンが出ていると思う。左様のため私は彼に釘付けなのだ。そんな私の説明を、ナミは適当に相槌をうって聞き流していた。ナミもウソップと似た彼に驚いていたが、驚いただけで私ほど興味を示さない。変だなあ。呟けば彼女は呆れた顔をして「変なのはアンタ」とデコピンしてきた。そして「そろそろ自覚の瞬間がやってくるかもね」とおざなりに言い残し去っていった。自覚の瞬間って、なんだあ?


「のう」
それは、若者には喉のつかえそうな呼び掛けだった。
今日のバスはがらがらで私と彼と、運転手さんだけ。辺りをさぐってもご老人なんていやしない。よもや疑う余地なく、あの声は彼のものだった。彼はどこかぎこちないはにかみを浮かべている
「…そう熱心に見られると、照れるんじゃが」
骨張るしなやかな指は高い鼻を掻き、彼の目が泳いだ。
そこで私は自分の失態に気が付いた。ああなんて恥ずかしい!もしかして、もしかしなくとも…彼はずっと知らんぷりをしてくれていた…?私は慌てて頭を下げた
「ご、ごめんなさい!」
「はは。謝るな。嫌ではないから」
朗らかな態度に溜飲さがるが、最後の嫌ではないとは一体。訝しく思っていると、彼は「じゃが」と口に出しながら座席を離れて私に近付いた。そして、ウソップとは違う四角い鼻が私の鼻を突いてしまいそうなほど顔を寄せてくる。すくむ私に彼はにっこり笑った
「わしはウソップではない」
「…えっ、」
「ヤツとはよく間違えられて参ったものじゃ。…悪いことばかりでも、ないが」
彼は私の真向かいに座った。うっすらと桃色がさした目元はいやに色気があり、じっと見詰められては居たたまれない。せめて何かしら喋ってくれたなら気も休まるというものだが、私をまっすぐ見詰めるばかり。
…彼は、ウソップと知り合いのよう。だから私は勇気を振り絞って、話題を振ってみた。いつもみていたのに、実際彼に話し掛けるのはとんでもなく胸が高鳴った。彼はウソップ以外に、ルフィやゾロとも交遊があるらしく面食らった。馴染みの名前が彼からでるのは妙だったが、距離が縮まったのを感じる
「カク」
「?」
「わしの、名前じゃ。覚えてほしい」
彼の名前を受け、私も礼儀と教えようと思えば、カクさんは知っていると私の名を言ってみせた。吃驚してカクさんを凝視すると、彼ははっと目を逸らした
「おまえさんは知らんじゃろうが、わしはずっと前からこうやって話したかった」
「そう…なんですか?」
「ああ。…わしのことは、ウソップに似た人ではなく、カクとして見てほしい。この意味がわかるか?」
私は頭の中で、何度も人違いに苦労する彼を考えたが、カクさんを見ると他に答えがあるように思えた。それに、そういう答えを言わさない雰囲気でもあったから。…あれ、なんだ、この緊張感。
次に止まるバス停のアナウンスが鳴る。カクさんは下車の合図のスイッチを押して、私を見た

「また明日もこのバスであいたい」
「…」
「わしは、おまえさんが」

その一瞬は思っていたより長かった。
バスを下りて行った彼を窓から見下ろしてみると、その横顔は耳まで真っ赤になっていた。言葉に、ならない。…私は全身でどきどきしている。自覚して、世界が開かれる瞬間はこんなにも鮮やかで照れ臭いんだ


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