大きく伸びをしたカリムが、大通りの真ん中で、人目を気にすることなく体の向きを変える。前向いて歩いて、という言葉を聞き入れてくれたかと思っても、またすぐにこちらに体ごと顔を向けるカリムは、第一印象よりも幼く見えた。

「ぶつかるよ」
「じゃあ手をつないでいよう」

 カリムがわたしの手を握る。腕が引っ張られる。体温が違う。体格が違う。歩幅が違う。わたしたちのそうした違いの一つ一つに、カリムの方は全く気がついていなさそうなことが不思議だった。

「これなら、お前が転んでもオレが受け止めてやれる」
「まって逆じゃない?」

 正面を向いて歩くこともできない男に、歩行の補助をしてもらうほど、わたしはふらふらしていない。昨晩からたびたび感じていたことだが、この男、とてつもなく態度がデカいぞ。わたしは確かにカリムに惚れているが、それでもプライドはあるのだから、これなら惚れても仕方ない、って周りの人が思うような言動をしてほしい。

「オレを受け止めるのは、ちょっとお前には無理じゃないか?」
「できますけど」
「じゃあ頼む!」

 カリムの両腕がわたしの肩の上に伸ばされる。抱きしめられる、というよりも、勢いよく飛びつかれた。当然の結末として、わたしの体は真後ろに傾く。普段の生活で感じない引力を体に感じて、ひやっとしたのも一瞬のことで、わたしの体はしっかりとカリムの腕に支えられていた。

「ほらな?」

 会話になってない。論理がめちゃくちゃだ。カリムが前を向いて歩かない理由になってない。でも、わたしの口からはロクな反論ひとつ出てこなかった。ホストだとか、ヤンキーだとか、バンドマンだとか、まともじゃないとわかっている、悪い男に嵌る女の子の気持ちがよく理解できた。

「……アイスを買ってあげよう」
「わーい!」

 パッと笑顔になったカリムが、強く抱きしめていたわたしの体を解放する。咄嗟に出てきた言葉がアイスだったことに、ひとり勝手に羞恥心を感じつつ、アイス屋さんとは逆方向にわたしの腕を引っ張るカリムを慌てて制止した。




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