「わるい、寝ちまった!」
「いい夢は見れた?」
「ああ!」

 いい思い出になった、とカリムは笑顔を見せた。寝てたのに? とわたしが嫌味を言うけれど、カリムの笑顔は崩れない。正直に言うと、拍子抜けだった。カリムみたいな男が、あんなふうに美しい光に、大して興味を持たなかったらしいことにわたしは驚いていた。イミテーションだと馬鹿にすることもなく、軽蔑することもなく、ただ無関心であることを、想像もしていなかった。

「なあ、お前は星が好きなのか?」

 カリムの何気ない声色の問いかけに、心臓がいやな音を立てる。うまく誤魔化せたとおもっていた嘘が、今更になって話題に登ろうとしているのを感じる。

「だから毎晩、ずっと寝ずに起きてるのか?」
「そうかもしれない」
「ずっと待っても星は出てこないのに?」

 この街は、星を見るには明るすぎる。満点の夜空が見られるのは、プラネタリウムの中か、何百キロも離れた、自分とは縁遠い地方だけ。でも、仕方ないじゃないか。わたしはこの街、この国、この時代に生まれた。魔法も星空もないここが、わたしに許された居場所だ。カリムは表情を変えず、何かを口にしようとする。わたしの名前を呼び、わたしに手を伸ばす。わたしはその手を跳ね除けた。

「わたしの勝手じゃん」
「あっおい!」

 わたしはカリムを置いて、その場を離れる。美しい夢を自ら手放す。星の美しさを知らない人間には、星を夢見ることは許されていないのだろうか。いつか王子様が迎えにくるというお伽話を、全てのひとは天国に行けるというお伽話を、星がわたしを見つめている限り父と母はわたしの側にいる、というお伽話を信じてきた。
 でも、わたしの頭上に星は現れない。王子様も迎えに来てくれない。




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