カリムのキッチンでの作業風景をみた結果として、彼がつくるおかゆを食べる勇気が出なかったため、自分の分とついでにカリムの分の食事も宅配で済ませる。
 わたしの熱が完全に下がったのは、その日の夕方になってからだった。

「完全に昼夜逆転しちゃったねえ」
「そういうのも旅の醍醐味だろ?」

 カリムの旅という言葉に、少し寂しい気持ちになりつつも、大事な夜を台無しにしたくはなかったので、笑顔でカリムの手を引く。やってきたのは、大都市のど真ん中にある、最新のプラネタリウムだ。

「へえ」
「カリムにはつまんないかもしれないけど」
「なんでだ? 綺麗なものは好きだぜ」

 プラネタリウムが映し出す夜空は偽物だ。魔法はかかっていないし、現実を誇張して描いている。けれど、綺麗なのは間違いない。それをカリムが認めてくれたことが嬉しかった。

 寝転がって、暗闇の中、黙って光と音を追いかける。あれは北斗七星、あれは乙女座、あれは獅子座。ナレーションの説明に従って、空に線が引かれるのが、なんだか風情が無いような気がして、なんとなく居心地の悪さを覚える。けれど、そうしたわかりやすい印なしに、自分に星座を理解できる能力があるわけではない。

 結局、わたしは星なんか好きじゃないのかもしれないな、と思った。たくさんある星の区別なんかつかない。ただの点の集まりに、意味を読み取るだけの感受性も持ち合わせていない。
 右手に感じていた、カリムの手の体温が唐突に離れた。わたしは言い訳をしようとした。こんなつもりじゃなかった、とカリムに弁解しようとして、頭を横に向ける。

「……寝てるし」

 プラネタリウムの機材と、壁とが見える。現実が視界に飛び込んでくる。カリムは、すやすやと静かに眠っていた。




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