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出窓を誰かがノックしている。こんな夜更に、こんなに警備の厳しい部屋の出窓を、こんな風に喧しく叩く人間なんて、一人しかいない。わたしが窓を開けると、すぐに男の腕が伸びてきて、窓の外にひっぱりだされる。

「いい夜だろ」
「眠い、寝る、もどる」
「お菓子もあるぜ」
「たべる」

 夜中に食べる甘味ほど、心を潤わせてくれる贅沢はない。口いっぱいに広がる甘味を楽しんでいると、横から無遠慮に指が伸びてくる。わたしが手に持っていた焼き菓子を、横からかっさらいやがった男に、文句を言うために顔をあげると、別のお菓子が口に詰め込まれる。

「美味しそうに食べてたから、ついな!」
「もう子どもじゃないんだから、他人のお菓子をとったりするべきじゃないと思うよ」
「うーん、これ一応、オレのとっておきのお菓子なんだけど……」
「カリムのものはわたしのものでしょ」

 何を寝ぼけたことを言っているんだ。わたしの非難に、なぜか嬉しそうに笑顔を浮かべるカリムが、わたしの髪に指を潜らせる。

「なあ、お前、自分が何の妖精か覚えてるか?」
「わたし? わたしは、オアシスの妖精だよ」

 豊かさと幸運を司る、ハッピーでご機嫌な妖精だよ。そんなこと、みんなが知ってる。みんながみんな、わたしを見て、ありがたがる。
 わたしはずっと昔から、カリム・アルアジームの隣にいる妖精だ。彼の成功が、彼の富が、彼の命が、わたしの存在を証明してくれている。

「なんでそんなこと聞くの?」
「聞きたかったんだ、お前の口から」

 世界でいちばん綺麗なお前が、世界でいちばん幸せでいてくれることが、オレは何よりも嬉しいんだ。カリムはそう言って目を細めた。

「喉かわいてないか?」
「かわいてないけど、いる」

 冷たい水が、喉を滑り落ちる。喉を撫でられているような、その感触は、きもちよくて、癖になる。

「なあ」
「なに?」
「眠たいなら、眠ってもいいぜ」
「じゃ〜遠慮なく」

 カリムの膝の間に、後頭部を乗っける。わたしの前髪を、カリムの指がやさしく撫でた。


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