ぶっ壊れてちょうだい




細切れになっていたシンの腕がくっついていた。綺麗に。見事に。きちんと動くし、食事をしたり、ものを握ったり、ひとを殴るのにももう不自由しない。聞けば通りすがりの魔法使いに治してもらったらしい。辻斬りヒーラーが現実世界に存在するなんておもってもみなかった。

「で、お前はなんでそんな顔してんだ」
「えー?いや別に......」
「別にって顔じゃネェだろ、吐け」
「めんどくさ、ぐえ」

久しぶりに首を絞められたが、相変わらず女相手に容赦がない。治ったとたんに暴力的だ。今まで誰がお前の面倒を見てやっていたと思っているんだ。自分のテンションがすごい勢いで下降していっているのをかんじる。なんかもうすべてがだるい。

「治ったなら別行動しない?」
「しない」
「はぁ?ワガママか?」
「俺のこと一生面倒みんだよな?オイコラこっち向け」
「そんな昔の約束覚えてませーーーん」
「あってめ、戻ってこ、クソ女ァ!!!!!」

会話中にシンの腰のチェーンをこっそり壁に繋いでおいたのおかげもあって、その場からさっさと逃走して、赤ん坊のころから一緒だった、シンとの関係はスッパリ切れた。一文無しで魔法使いの世界で生きることになったわけだが、特に問題はない。適当なマスクをかぶっていれば、それなりに生きるすべはあるのだ。


______



「ン?」
「アッ」

出会って2秒で魔法をかけられ、バラバラになったわたしを、シン(仮)が見下ろしていた。手より先に魔法が出るなんて、もう立派な魔法使いだ、死んでしまえ。

「知り合いですか、先輩?」
「幼馴染だ」
「ヒトチガイダヨッ!」
「お前は昔っから声の変え方がワンパターンだなァ?名前」
「ヒトサライーーー!」

そういうわけで連行された先は煙屋敷だった。同じゴミ溜めで生まれた仲間だったのに、シンはいつのまにかエリートになってしまっていた。

「で、俺の面倒を見るのをやめて、お前はあんなことをしてたわけか」
「あんなこととはなんだ、慈善事業じゃないか」
「そんなに介護が好きなら、俺の世話をしてればよかっただろ」
「腕がある人間のお世話には興奮できない」
「......ふざけて......はいねェな......」
「腕が駄目なったらまた声かけて、キャア!!?!?」

シンの腕が目の前でへし折れる。下手人はシン、被害者もシンである。右手の握力だけで、左腕が付け根から粉砕されてしまった。

「アワワワワワ」
「さすがに素手じゃ千切れねえな」
「エッなに?なんのパフォーマンスこれ?」
「ちょっと能井のとこ行くから待ってろ」

残った右手で、何事もなかったかのようにドアを開けて出て行こうとするシンの背中に、わたしは混乱したままで飛びついた。このままでは、シンの右手がわたしの知らないところで失われてしまう。

「やるならわたしの前でやって!!!!!」
「わかった」

しばらく歩いて見つけた部屋、不思議そうな顔をしたままの能井さんが、シンの腕をその場で捻りとる。すごいパワーだ。魔法で筋力を増幅させたりしているのだろうか、もしそうならわたしにもかけてほしいな、と思ったら魔法は治療系らしい。興奮するわたしの後ろで、煙様がドン引いていたのが印象的だった。

煙様に追い出されてしまったので、シンの部屋に戻って、両腕の止血をする。スーツは血でぐちゃぐちゃになってしまったので、代わりにTシャツを着せてあげる。
お腹が空いているみたいだったので、キッチンを借りて、久しぶりに料理をつくってあげた。昔はアーンを嫌がって犬食いしていたのに、わたしの手で食べさせられるのを普通に受け入れるようになったので、会わなかったあいだの成長を感じたりした。

「名前、お前さあ」
「なに?」
「ホールにいた頃からこういうことしてたのかよ」
「してないよ。ほぼ毎日、一日中、シンと一緒にいたじゃん」
「ふーん」
「こうやってシンのお世話するのがあんまり楽しかったからさあ」
「今も楽しいか?」
「うん!」
「ならいいや、許す」

許してもらうことなんてあったかなあ?と思いつつ、まああえて自分の弱みをつつくこともないだろう、とスルーする。

「ねえ、腕、また治しちゃうの?」
「仕事に行く時だけな」
「帰ってきたら、また腕とるの?狂ってるなあ」
「腕とれても世話係がいるからな」
「ふふふ、じゃあ問題ないね」
「ああ、問題ない」


(わたしもシンの腕をとれるようになりたい!と筋トレを始めるようになる)




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