あなたからキスしてよ




「う"っう"っ、う"ぇ、げほっ、ごほっ」
「泣くなよ名前〜〜〜!」
「や、や"ざじぐしない"で」
「オレがわるかったよぉ」

女の子が顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いている。マズイ場面に出くわしてしまったなあと思いつつ、能井さんを呼んでこいと言われた命令をなかったことにするわけにもいかない。俺はなんでこう、運が悪いのだろうかと思いつつ、恐る恐る声をかける。

「あの、能井さん」
「アッ!藤田!なんか面白いことしてくれ!」
「いやたぶんそれじゃあ泣き止まないんじゃあないですかね.....」
「ほら名前〜藤田だぞ〜」
「う"え"ーーーん!!!!!!!」

女の子はついにその場にうずくまってしまう。なんだか俺が泣かせたみたいに思えてきて居心地がとても悪い。

「で、能井さん、なにしたんですか」
「子どもが欲しいって言われてよ」
「......誰のですか?」
「オレの」
「能井さん子供いたんですか?」
「いや、オレとの子どもが欲しいって名前が」

能井さんの言葉に、再度、泣いている少女を見る。スカートを履いていることを確認し、それでも一応、能井さんにも質問しておく。

「この、名前?さん?は女の子なんですよね」
「おう」
「能井さんとの子どもが欲しいと」
「おう」
「それは無理ですね......」
「そうなんだよな〜〜〜」

でもまあ、経緯は理解できた。悲しい勘違いだ。でも、それなら解決策もはっきりしている。

「能井さん、自分が女だって言ったら"ッ」
「バカ!シーーーッッ!!!」
「ゴホッッッ」
「あ、わりぃ」

ゲロを吐きそうになるのを死ぬ気でこらえる。能井さんが本気だったら胴体に穴が空いていたはずなので、手加減されたのは理解できるが、それでも普通に必殺の一撃すぎる。

「それはナイショにしたいんだって」
「っ、な、なんでですか?」
「名前はオレに惚れてるみたいなんだけど」
「そうみたいですね」
「オレが女だって知ったら、好きじゃなくなるかもしんないだろッ!」
「......」

割と衝撃的なことを聞かされた気がする。聞き間違いか?いやでも、聞き直す勇気がもてない。

「名前〜子ども以外ならなんでもやれるから、な?」
「なんでも?ほんとに?」
「おう!」
「サイン入りの婚姻届は?」
「ん、んーそれ以外にしないか?」
「やっぱだめなんじゃんーーーー!」

能井さんでも、好きな女の子の涙には勝てないんだなあ、とおもいつつ、自分にできることもなかったので、結局、心さんが呼びにくるまで、気配を消しているしかなかった。


(名前ちゃんは能井ちゃんの性別は知ってる)




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