壊れ物は壊しておいたよ




「自分で言うのもアレだけど」

 五条くんは首を傾げながら、わたしの目を覗き込む。側頭部に添えられた五条くんの手が徒に動くので、髪が擦れる音で精神まで摩耗していく。

「お前にはやさしくしてんじゃん、俺」
「うん」
「ちゃんとしろって俺ばっか言われるからさ、聞いてもいい?」
「いいよ」

 別に怒ったりしないから本音で答えろよ、と明るい笑顔を見せる五条くんに肯定を返す。俺のこと好き? うん。ならキスもしてくれる? もちろん。少しだけ自分のつま先に無理をさせて、顔を近づける。
 つま先の力を緩めて、五条くんの表情を確かめる。真上にある男の細められた両眼の隙間、伏せられた睫毛の奥から漏れる光のつよさに、思わずよろめいた。いつものことだとばかりに、わたしの体を支えた五条くんは愉快そうな声をだす。

「ちっちゃいやつは大変だな」
「うん、ごめん」
「俺は無理やりとか、そっち系の願望はない方なんだけどさぁ」

 二の腕を掴む男の手に、何の前触れもなく呪力が込められた。どうして、と男に聞く。五条くんはしょうがないだろ、と呆れたようにため息を吐いて口を開く。

「どんだけ優しくしても『強制されてます』みたいな態度とられるんだから、もう無理やりやっても一緒だろ」
「え、や、やだ」
「……泣いちゃってんじゃん、限界低すぎねえ?」

 保たなければいけないと頑張っていた、上っ面の表情が崩れてしまえば、もうその他のものに優先順位をつける余裕もない。自分が何を口にしてるかも分からないままで口を動かすわたしの脳を、五条くんの声だけが叩き起こす。

「名前、泣いてないでキスして」
「っむり」
「しゃがんでやったから、ほら」
「……」
「ははっ、言われればしちゃうんだやっぱ」
「っだって」
「かわいーね」

 愛おしそうな表情と甘い声と、重たい呪力が体に纏わりつく。

「どこまでならしてくれんの?」
「しない」
「まあそれはいつでも確認できるからいいけど、俺以外に迫られてもするだろお前」

 そういうのは良くないと思うぜ、と五条くんがやさしく笑う。お前が弱いのは仕方ないけど、すぐに泣き出すのは直さなきゃだよな、とわたしの髪を撫でる男の手を跳ね除けようと、一度持ち上げた手の重さに息があがる。

「なんで?」
「だって、名前、泣くとすごい可愛いもん」

 ぼた、と顎の下から大きな水滴が落ちる。五条くんはわたしの唇を舐めた後、カフェで甘いものでも食べる? と屈託なくわらった。

(傑がうるさいからちゃんと上下関係をはっきりさせたんだろの顔する)




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