花が散るように君が嫌い




 呪術師の実力は、術式の発現時点でほぼ完成されていると言っていい。練度も年齢も関係ない。つよいひとは、生まれた瞬間からずっと強い。だから勘違いをしていたのだと思う。

「あんま舐めたこと言うな、殺したくなる」

 悟くんがわたしの目をみる。腕が上がらない。飲み込めずにいる唾液が口内に溜まっていく。

「言い訳ぐらいしろよ」
「っごめ」

 失望されているんだと思う。悟くんは悲しんでいるんだと思う。客観的に見ても、悟くんはわたしに懐いてくれていたし、最近穏やかになってきた語り口が乱れているのも、それだけ必死になってくれているだけなんだとわかる。悟くんはまだ学生で、わたしの言葉に傷ついていて、わたしに縋ろうとしている。
 そういう理屈を飲み込んで、やさしい言葉で窘めてあげるには、五条悟の内側にある呪いは重過ぎた。この場に立って、彼の苦しみに寄り添えるだけの余裕が残っているはずもなかった。

「僕は誰も許してない」
「うん」
「自分なら許してもらえると思ってた?」

 悟くんに尋ねられて、考える。尋ねられて初めて、わたしは悟くんからの許しについて考えていた。自分の口にしたことが、悟くんにとっては許し難いことであるなんて、思ってもみなかったから。

「僕はね、傑を殺すよ」
「……うん」
「名前さん相手なら、そんなことしなくても済む」

 殺さなくても収拾できる。時間をかけて手加減しながら、痛くないように、死なないように手足をもぎ取れる。僕が君に費やした時間と同じだけ、ちゃんとずっと目の届く場所で生きてくれるように。
 だから行かないで、そう言って悟くんは目を伏せた。

「でも多分、わたし、向いてないから」
「みんな弱いなりにやってるもんだろ」
「呪術師やめてもさ、携帯とかはあるし」
「まともな企業のまともな仕事中だからって電話もしてくれなくなるんだよ名前さんは、そんで会いに行ったらいったで恥ずかしいからって話もしてくれないんだ」
「え、あ、うん」

 足を切りますとか言ってた男の発言とは思えない、湿っぽい愚痴に意表を突かれて適当な相槌になる。それにますます不機嫌な顔をする悟くんに、殺せばいいのに、と余計な一言がこぼれ落ちた。

「未だ返してもらってない」
「わたしが?」
「うん、だから殺したくなったら、さっきみたいに名前さんに直接言うから、ちゃんと止めてね」
「えーと、コツとかある?」
「雑魚っぽいかんじでいればいいよ」

 殺すまでもないなって、態度で示して、と悟くんはカラッとした笑顔を見せた。

「というか名前さんが実力明らかにたりてない任務ばっか担当してるの、僕が同行に捻じ込んでるだけだからね」
「め、迷惑……」
「うん、だからそこは一緒に考えよう。多少滅茶苦茶な案でも無理は僕が通せるから」

 補助監督って術師個人に紐付けとかできたっけ、と首を傾げる悟くんの周囲の空気に、先ほどまでの重さはない。何も無い空間に浮かんでいるような、静かな動作で悟くんの瞼がその目を隠す。

「でもわたし、悟くんに何を返せばいいの?」
「さあね」


(お前にやった愛を返せよ)




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