かわいいだらけでできたきみ





 暗い森の夢を見る。鳥の声が聞こえる中で、わたしは空を飛んでいる。だから自分は鳥に違いないと思っていたのだけれども、わたしは鳥ではなかったらしい。

「おや、あんまり嬉しくなさそうな顔だね」
「鳥に憧れる年頃なのかもしれない」
「妖精だって十分立派な生き物さ」

 わたしの頬を指先で撫でながら、オベロンはニッコリと笑顔を見せた。キラキラの王冠と、素敵なマントがあるのなら、それはきっと立派な誰かに違いない。派手派手衣装のオベロンに、わたしの気持ちなどわかるものか。むすくれるわたしの頭を剣山にして生花を始めたオベロンは、君がなりたがってる鳥だって、僕みたいなかっこいい服は着てないだろ? と頭を傾けて、綺麗な王冠をもっと綺麗にみせつけてくる。

「あのねえオベロン」
「なんだい名前」
「綺麗な服がなくても立派だねって言われるのが、鳥のいいところなんだよ」
「あいつらは食べられる以外に役立たないから、綺麗な服がいらないんだぜ」
「じゃあ妖精は何の役に立つの?」
「僕の役に立つといいよ」

 鳥っていうのは、素敵な生き方だ。鳥は人間に食べられるけれど、鳥には王様がいないものね。勝手きままに空を飛ぶだけ、それはすごくいいものに思える。

「あっはっは、一揆でも起こしてみるかい」
「一揆はしないよ」
「お前友だち少ないもんねえ」
「そうです、わたしは主体性の高い妖精なので、家出をすることにします」

 森を出よう。王様なんていない場所で、はぐれの妖精として生きてみよう。きっと楽しい旅になるように思えた。素敵なアイデアだと思ったので、オベロンに自慢する。これからわたしは森を出て、美味しい果物を見つけにいくことにする。綺麗な色の、いい匂いがする、とても大きなくだものを探しにいくよ。もしそれがいっぱいたくさん見つけたら、オベロンには一個だけあげてもいいよ。

「名前は飛ぶのが得意だものね」
「まあね!」
「じゃあその翅はとっちゃおう」

 オベロンの左手がそっと首の後ろにそえられて、ぎゅっと握りしめられた右手が、わたしの一部と一緒に離れていく。

「飛ぶのは鳥にまかせとけばいいからさ」
「っなんで」
「君の笑顔には価値がある。僕の隣でわらっていておくれよ」

 美味しい果物を探すのは、もっと足が速い妖精か、貪欲な人間にでもやらせればいい。世の中みんな、適材適所。食べれない鳥に価値はないし、王様のお気に入りだって、王様の隣にいなきゃ意味はない。

「なんにもしないでここにいるのが、君の大事で立派な役目だよ」

 なにもしないで生きるのは、じつはとっても難しい。わたしがそれをオベロンに伝えると、小さくわらって、わたしの耳にこっそりと、小さな囁き声でわたしたちの秘密をしゃべる。実は妖精っていうのはね、みんな誰もなんにもしちゃいないんだ。

(お前は俺以外の誰の役にも立ちやしないんだからさ)




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